市場分析・統計

【2026年市場予測】データで読む、日本のリユースファッション市場の次なる成長ドライバーとは?

執筆者:田中 美穂(株式会社サステナブル・ファッション・ラボ 代表取締役 / 早稲田大学商学学術院 客員研究員)

株式会社サステナブル・ファッション・ラボ代表の田中美穂です。

近年、日本のファッション市場においてリユース(二次流通)の存在感が急速に高まっています。矢野経済研究所の調査によれば、2023年の国内ファッションリユース市場は1兆1,500億円(前年比113.9%)と2桁成長を遂げ、1兆円の大台を突破しました。 この成長は、単なる節約志向やフリマアプリの普及といった既存の要因だけでは説明できません。

本記事では、サステナブルファッション研究者の視点から最新データを読み解き、2026年以降の市場を牽引する「次なる成長ドライバー」を、テクノロジー、消費者価値観、新ビジネスモデル、そして政策・投資動向の4つの観点から多角的に分析・予測します。循環型ファッション経済の実現に向けた、次なる潮流を明らかにしていきましょう。

【市場規模データ】日本のリユースファッション市場の現状と2026年予測

まずは、マクロな視点から市場の現状をデータで確認します。

市場規模の推移と成長率データ

矢野経済研究所の最新調査によると、2023年の国内ファッションリユース市場規模は、小売金額ベースで1兆1,500億円(前年比113.9%)と推計されています。 2024年には1兆2,800億円(前年比111.3%)と予測されており、市場は依然として高い成長率を維持していることが示唆されています。

これまでの成長を牽引してきたのは、主に以下の要因と考えられます。

  • フリマアプリの定着: 個人が手軽に不要な衣類を売買できるプラットフォームが一般化し、リユースへの心理的・物理的ハードルが大幅に低下しました。
  • サステナビリティ意識の向上: 環境負荷の大きいファッション産業のあり方に対する問題意識が消費者の間でも広がり、リユースが「賢い消費」としてポジティブに捉えられるようになりました。

しかし、これらの要因が市場の基盤を形成した現在、業界は新たな成長フェーズへと移行しつつあると考えられます。

チャネル別市場動向:CtoCからBtoCへのシフト

市場の成長をチャネル別に見ると、興味深い変化が観察されます。リユース経済新聞の調査では、フリマアプリを中心とするCtoC(個人間取引)市場の成長率が鈍化傾向にある一方で、BtoC(企業対消費者)市場、特に一次流通の事業者が自らリユース事業に乗り出す動きが活発化しています。

一次流通企業が二次流通市場に参入する戦略的意図は、私のコンサルティング経験からも、以下のように多角的に分析できます。

  • 顧客エンゲージメントの深化: 製品の販売後も、買取や再販を通じて顧客との関係性を長期的に維持し、ライフタイムバリュー(LTV)を向上させます。
  • ブランド価値の維持・管理: 自社製品の中古市場における価格や品質をコントロールすることで、ブランドイメージの毀損を防ぎます。
  • サーキュラーエコノミーへの移行: 製品のライフサイクル全体に関与することで、資源循環のループを構築し、サステナビリティ経営を本格化させる狙いがあります。
  • ライフサイクルアセスメント(LCA)視点でのデータ収集: 製品がどのように使用され、いつ、どのような状態で手放されるのかという貴重なデータを収集し、製品開発やマーケティングに活用します。

このBtoCへのシフトは、市場全体の品質と信頼性を向上させ、新たな顧客層を獲得する上で重要な意味を持つと考えられます。

【2026年市場予測】リユースファッション市場の成長ドライバー4選

ここからは、2026年以降の市場を牽引するであろう4つの次世代ドライバーについて、具体的な事例を交えながら解説します。

成長ドライバー① テクノロジー(AI鑑定・ブロックチェーン)による信頼性向上

リユース市場、特に高価格帯のブランド品において最大の課題は「信頼性」です。この課題を解決する鍵として、テクノロジーの活用が急速に進んでいます。

  • AIによる真贋鑑定・価格査定
    リユース大手のコメ兵では、AIを活用した真贋判定システムを導入し、99%以上という高い精度を実現しています。 AIがブランドロゴのフォントや縫製のパターンといった微細な特徴を過去の膨大なデータと照合することで、熟練の鑑定士でも見極めが難しい精巧な偽物を判別します。 こうした技術は、消費者にとっての「偽物かもしれない」という購入リスクを劇的に低減させ、市場の透明性を高める上で不可欠なインフラとなりつつあります。
  • ブロックチェーンとトレーサビリティ
    製品の個体情報をブロックチェーンに記録し、その来歴を追跡可能にする技術も注目されています。これにより、製品がいつ、どこで製造され、誰によって所有されてきたかという「物語」が可視化されます。このトレーサビリティ(追跡可能性)は、リユース品の価値を客観的に証明するだけでなく、後述する「デジタル製品パスポート」の基盤技術としても極めて重要です。

成長ドライバー② Z世代の消費行動と新たな価値観の変化

次代の消費を担うZ世代の価値観は、リユース市場の質的な変化を促す重要なドライバーです。

  • 「サステナブルだから」では売れない
    調査によると、Z世代の多くはサステナビリティへの関心が高い一方で、価格やデザイン性を理由に安価なウルトラファストファッションを購入してしまう「ごめんね消費」と呼ばれる行動も確認されています。 これは、彼らにとってサステナビリティが購買を決定する唯一の要因ではないことを示唆しています。環境配慮という訴求だけでなく、ファッションとしての魅力、すなわちデザイン性や自己表現のツールとしての価値を提供することが不可欠です。
  • 所有から利用、そして共感へ
    私の専門分野である消費者行動分析の観点から見ても、Z世代はモノを「所有」することへの執着が比較的薄い傾向にあります。彼らは、大量生産品にはないユニークな一点物や、製品の背景にあるストーリーに価値を見出し、それに「共感」することを重視します。リユース品は、まさに個性を表現し、他者との差別化を図るための最適なファッションアイテムとして、彼らの価値観に深く合致しているのです。

成長ドライバー③ ビジネスモデルの進化(リセール・アップサイクル)

企業の参入が増える中で、単に中古品を販売するだけではない、新たなビジネスモデルが生まれています。

  • ブランド自身による再販(リセール)市場の確立
    欧米では、多くのファッションブランドが自社製品の認定中古品を販売する「リセール」プログラムを導入しています。 これにより、ブランドは二次流通市場を公式にコントロールし、品質を保証することで顧客に安心感を提供します。 このモデルは、ブランド価値の維持と顧客との長期的な関係構築に繋がり、日本でも今後さらに普及していくと考えられます。
  • 「リペア・アップサイクル」サービスの融合
    これからのリユースビジネスは、再販(リセール)に加えて、修理(リペア)や創造的再利用(アップサイクル)といったサービスを融合させることが鍵となります。製品の寿命を延ばし、新たな付加価値を与えるこれらの取り組みは、資源を循環させ廃棄物を削減するサーキュラーエコノミーの核心であり、企業の競争優位性を築く上で重要な戦略となるでしょう。

成長ドライバー④ 政策・投資動向(デジタル製品パスポート・ESG)

グローバルな政策や投資の潮流も、日本市場に大きな影響を与える外部ドライバーです。

  • 欧州発「デジタル製品パスポート(DPP)」のインパクト
    EUでは、製品のライフサイクル情報を電子的に記録・追跡可能にする「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入が法制化されつつあります。 これには原材料、製造元、修理・リサイクル情報などが含まれ、繊維製品も対象となる見込みです。 グローバルなサプライチェーンを持つ日本企業もこの規制への対応が不可避となり、製品設計の段階からリユース・リサイクルを前提とすることが求められます。これは、国内のリユース市場の透明性を飛躍的に高める強力な追い風となるでしょう。
  • ESG投資マネーの流入
    近年、企業の環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)への取り組みを評価して投資先を選ぶ「ESG投資」が世界の金融市場で主流となっています。 ファッション産業は環境負荷が大きいと指摘されており、廃棄物削減に直接的に貢献するリユース事業は、投資家から高く評価されやすい構造にあります。 今後、ESGを重視する投資マネーがリユース関連事業に流入することで、技術開発やインフラ整備がさらに加速することが期待されます。

【専門家が解説】リユースファッション市場の将来性と今後の課題

これらの4つのドライバーは、相互に影響し合いながら日本のリユースファッション市場を新たなステージへと押し上げていくと考えられます。

提言:日本市場が持つ世界的なポテンシャルと将来性

これまでの分析を踏まえ、私は日本市場が世界的に見ても質の高いリユース市場を形成し、国際的なリーダーシップを発揮できる大きなポテンシャルを持つと考えています。その強みは以下の点に集約されます。

  • 高品質な中古品ストック: 日本の消費者は製品を丁寧の扱う傾向があり、中古品であっても状態の良いものが豊富に存在します。
  • 独自の消費者文化: 「もったいない」という精神文化が根付いており、リユースに対する親和性が高い土壌があります。
  • 高度な品質管理技術: AI鑑定に代表されるテクノロジーと、長年培われてきた職人的な目利きを融合させることで、世界最高水準の品質管理が可能です。

例えば、アジア市場での調達において、現地での厳格な品質管理体制を構築している企業の取り組みは、日本のリユース品が持つ「ジャパンクオリティ」を海外で実現する上で重要な示唆を与えてくれます。こうした強みを活かし、テクノロジーと文化を融合させた独自の市場モデルを構築することが、今後の成長の鍵となるでしょう。

克服すべき課題:サプライチェーンの透明性と法整備

一方で、市場の持続的な成長のためには克服すべき課題も存在します。最大の課題は、リユース品の回収、選別、再商品化という一連のサプライチェーンにおける非効率性や不透明性です。誰が、どこで、どのように手放した衣類が、どのようなプロセスを経て再び市場に戻ってくるのか、そのマテリアルフローを可視化し、最適化していく必要があります。

また、欧州で進むデジタル製品パスポートのような政策導入に向けて、国内の法整備や業界標準の策定が遅れている点も否めません。産官学が連携し、データの標準化や情報共有プラットフォームの構築を急ぐことが、国際競争力を維持する上で不可欠であると考えられます。

よくある質問(FAQ)- リユースファッション市場の気になる疑問

Q: 2026年、日本のリユースファッション市場はどのくらいの規模になると予測されますか?

A: 明確な2026年の公的予測値はまだありませんが、2024年に1.28兆円と予測されており、近年の年間10%前後の成長率を考慮すると、1.5兆円規模に達する可能性が十分に考えられます。 本稿で解説したテクノロジーの進化や消費者の価値観の変化が、この成長をさらに加速させるポテンシャルを秘めていると分析しています。

Q: なぜ今、大手アパレル企業がリユース事業に参入しているのですか?

A: 主に3つの理由が考えられます。第一に、ESG投資など外部からのサステナビリティ要請への対応です。第二に、自社製品のブランド価値を中古市場でコントロールする目的があります。そして第三に、買取や再販を通じて顧客との長期的な関係(LTV)を築くためです。もはや新品販売だけでなく、製品のライフサイクル全体に関与することが企業の持続的成長に不可欠となっています。

Q: 「デジタル製品パスポート」とは何ですか?日本にも導入されますか?

A: 製品の原材料、製造元、修理・リサイクル情報などをQRコードなどで追跡できるようにする電子的な証明書のような仕組みで、主にEUで法制化が進んでいます。 グローバルに事業展開する日本企業も対応が求められるため、将来的には日本でも同様の制度が導入される可能性は極めて高いとみています。これはリユース市場の透明性を飛躍的に高めるゲームチェンジャーとなり得ます。

Q: Z世代は本当にサステナブルなファッションを求めているのでしょうか?

A: 調査によると、Z世代の約3人に1人がサステナブルファッションを認知していますが、同時に価格やデザインを理由に安価なファストファッションを選ぶ「ごめんね消費」という矛盾した行動も見られます。 彼らにとってサステナビリティは重要な価値観の一つですが、それが全てではありません。「環境に良い」という機能的価値だけでなく、ファッションとしての魅力やストーリー性といった情緒的価値を両立させることが不可欠です。

Q: リユース品を購入する際、偽物を避ける方法はありますか?

A: AIによる真贋鑑定サービスを提供するプラットフォームや企業の利用が最も有効な手段の一つです。近年、AI技術の向上により鑑定精度は飛躍的に高まっています。 また、各ブランドが公式に運営する認定中古品プログラムを利用することも、信頼性を担保する上で非常に有効な手段と考えられます。

まとめ

本稿では、データに基づき2026年以降の日本のリユースファッション市場を牽引する4つの次世代ドライバーを解説しました。

  1. テクノロジーによる信頼性の向上
  2. Z世代が創出する新たな価値観
  3. 多様化するビジネスモデル
  4. 政策・投資という外部環境の変化

これらの要因が複合的に作用し、市場を新たな成長ステージへと導いています。ファッション業界は、リニアな大量生産・消費モデルから、資源を循環させるサーキュラーエコノミーへと大きく舵を切る歴史的な転換点にあります。この変化は単なるトレンドではなく、不可逆的な構造変革です。事業者も消費者も、この大きな潮流を正しく理解し、持続可能なファッションの未来を共に創造していくことが求められています。