「返品された商品は、その後どうなるのだろう」。アパレル業界に関わる方なら、一度はこの疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか。
サステナブルファッション研究者の田中美穂です。株式会社サステナブル・ファッション・ラボの代表として、大手アパレル企業のサステナビリティ戦略コンサルティングに携わりながら、早稲田大学商学学術院の客員研究員として循環型ファッション経済の研究を続けています。
近年、世界のアパレル業界で「リコマース(recommerce)」という言葉が急速に広がっています。これは、返品された商品や使用済みの衣料品をブランド自らが買い取り、検品・修繕を経て再販売するビジネスモデルです。米国では年間8,900億ドル(約130兆円)もの返品商品が発生しており、この膨大な「返品」をコストではなく資産として捉え直す動きが加速しています。
この記事では、リコマースの基本的な仕組みから、世界と日本の先進事例、そしてこのビジネスモデルがアパレルの流通構造をどのように変えようとしているのかを、データと事例に基づいて詳しく解説します。

目次
リコマースとは? 従来のリユースとの違い
リコマースとは、「re(再び)」と「commerce(商取引)」を組み合わせた造語で、一度消費者の手に渡った商品を再び流通させるビジネスモデルを指します。日本語では「再販」「リセール」と訳されることもありますが、単なる中古品売買とは異なる特徴を持っています。
従来のリユースビジネスは、古着屋やリサイクルショップ、フリマアプリなど、ブランドの関与なしに第三者が中古品を流通させるモデルが主流でした。一方、リコマースの最大の特徴は、ブランドや小売企業自身が二次流通に関与するという点にあります。つまり、新品を製造・販売するメーカーが、自社商品の「二度目の人生」にも責任を持つ仕組みなのです。
この違いは非常に重要です。ブランドが二次流通を管理することで、品質保証、価格統制、顧客データの取得が可能になり、従来は「損失」でしかなかった返品商品が「新たな収益源」へと変わるからです。
リコマースの4つのビジネスモデル
日本でもリコマースは多様なかたちで展開され始めています。主な4つのモデルを整理してみましょう。
| モデル | 概要 | 代表例 |
|---|---|---|
| ブランド公式リセールストア | ブランドが自社サイトや専用店舗で中古品を直接販売 | Patagonia Worn Wear、マーガレット・ハウエル MH RESELL |
| RaaS(Resale as a Service) | 外部プラットフォームのインフラを活用して自社リセールを展開 | ThredUp×Lands’ End、Trove×lululemon |
| 買取・下取りプログラム | 顧客から使用済み商品を買い取り、ポイントやクーポンで還元 | 無印良品 ReMUJI、ユニクロ RE.UNIQLO |
| C2Cプラットフォーム連携 | フリマアプリ等と提携し、消費者間の再販を促進 | メルカリ×各ブランド提携 |
どのモデルにも共通しているのは、ブランドが何らかのかたちで二次流通に関わっている点です。これにより、従来は把握できなかった中古市場でのブランド体験を、企業がコントロールできるようになります。
8,900億ドルの返品がアパレル業界を変える
リコマースが注目を集める背景には、世界規模で膨れ上がる「返品問題」があります。
全米小売業連盟(NRF)とHappy Returnsの共同調査によると、2024年の米国における小売返品総額は8,900億ドル(約130兆円)に達しました。これは前年比15%の増加であり、年間売上の16.9%に相当します。オンライン販売に限ると返品率は17.6%にのぼり、2,470億ドル分の商品が消費者から戻ってきている計算です。
特にアパレル業界は返品率が高い業種として知られています。サイズが合わない、イメージと違う、色味が画面と異なるなど、ECならではの理由で返品が発生しやすいのです。さらに近年はZ世代を中心に「ブラケティング」と呼ばれる購買行動が広がっています。これは複数サイズや複数色をまとめて注文し、試着後に不要なものを返品する行為で、NRFの調査ではZ世代の51%がこの行動を取ったことがあると回答しています。
返品商品はどこへ行くのか
では、返品された商品はその後どうなるのでしょうか。実は、返品商品のすべてが再び店頭に並ぶわけではありません。
返品された衣料品は、検品、たたみ直し、再包装といったリバイバル作業を経なければ再販できません。シーズンが過ぎてしまった商品は、たとえ未使用であっても正規価格での販売が難しくなります。結果として、返品商品の一部は大幅なディスカウント販売に回され、さらに一部は廃棄処分されてきました。
日本においても、ECの返品率は5~10%とされ、アパレル分野ではさらに高い傾向があります。Recustomer社の2023年度調査では、ECサイト全体の返品率は6.61%で、顧客都合の返品を受け付ける事業者は63.5%にのぼります。返品に伴う物流コスト、人件費、商品価値の毀損は、アパレル企業の収益を静かに、しかし確実に蝕んでいるのです。
「返品=損失」から「返品=資産」への転換
リコマースは、この構造を根本から転換しようとする試みです。
従来、返品は「コスト」としてしか捉えられていませんでした。しかし、リバースロジスティクス(返品物流)の仕組みを整備し、返品商品を効率的に検品・グレーディングして再販につなげれば、それは新たな売上になります。しかも、すでに製造コストは回収済みの商品ですから、再販時の利益率は新品販売よりも高くなる可能性があります。
ここに、リコマースの経済合理性があります。「環境に良いから」という理念だけでなく、「ビジネスとして合理的だから」こそ、世界中の小売企業がリコマースに参入し始めているのです。
世界を変えるリコマースの先進事例
リコマースの概念を理解したところで、実際にこの領域をリードしている企業の取り組みを見ていきましょう。
Trove ── 50以上のブランドを支えるリコマースOS
米国のTroveは、ブランド公式リセールを実現するテクノロジープラットフォームです。エレン・マッカーサー財団の事例紹介ページでも取り上げられているTroveは、Patagonia、lululemon、Canada Goose、REI、Levi’s、Allbirds、Eileen Fisherなど50以上のグローバルブランドにリセール・返品管理のインフラを提供し、累計700万点以上の商品を処理してきました。
特に注目すべきは、Eileen Fisher Renewの取り組みです。Troveのプラットフォームを活用して、これまでに150万着以上の衣料品を回収し、約5万ポンドの廃棄物を埋め立てから回避しています。Patagoniaの「Worn Wear」プログラムも、Troveの技術基盤のうえに構築されており、修繕済みの中古ウェアを公式サイトで購入できる仕組みが確立されています。
ThredUp ── RaaSで加速するブランドリセール
ThredUpは、Resale-as-a-Service(RaaS)という独自のモデルで急成長しているプラットフォームです。ブランドがリセール事業に参入する際に必要なインフラ(集荷、検品、撮影、出品、発送)をすべて代行するサービスを提供しています。
ThredUpの2025年版Resale Reportによると、2024年の米国中古アパレル市場は前年比14%成長し、2021年以来最も力強い伸びを記録しました。オンラインリセールに限れば23%の成長で、市場規模は260億ドルに達しています。グローバルでは、中古アパレル市場は2029年に3,670億ドル規模に成長すると予測されています。
2026年1月には、米国の老舗カジュアルブランドLands’ EndがThredUpのRaaSプラットフォームと提携し、クリーンアウトプログラムを開始しました。消費者が不要な衣類をThredUpに送ると、Lands’ Endのショッピングクレジットが付与される仕組みです。このように、リコマースは顧客のリピート購入を促進する「ロイヤリティプログラム」としても機能し始めています。
日本のリコマース ── 静かに広がるブランド公式リユース
日本でもリコマースの動きは確実に広がっています。
先駆的な取り組みとして知られるのが、無印良品の「ReMUJI」です。2010年から衣料品の回収・リサイクルプログラムをスタートし、回収した衣料品を染め直しや修繕を施して再販売しています。マーガレット・ハウエルの「MH RESELL」は、ブランドが認定した中古品を公式リユースストアで販売する取り組みです。革靴の名門・三陽山長も公式リユースストアを運営し、職人によるリペアを経た商品を再び市場に送り出しています。
2024年12月には、アパレルウェブとFree Standardがブランド公式リユース事業で協業を発表しました。Free Standardは「Resale as a Service」を標榜し、ブランドがリユース事業を始めるためのインフラを提供しています。日本版のTroveやThredUpとも言えるこの動きは、国内のリコマース市場を大きく前進させるでしょう。
メルカリが運営する「リコマース総研」の調査では、興味深いデータが示されています。「6,000円のTシャツを1シーズン着用後にフリマアプリで4,000円で売却できた」というシナリオに満足と回答した人は全体で40.8%。Z世代に限ると61.2%に跳ね上がります。Z世代にとって、購入時点で「いずれ売ること」を前提とした消費行動はすでに当たり前になりつつあるのです。
リコマースがアパレル流通構造を変える3つのメカニズム
リコマースは単なる「中古品販売」ではありません。アパレルの流通構造そのものを再設計する力を持っています。その変革のメカニズムを3つの視点から整理します。
リニアからサーキュラーへ ── 流通の「再設計」
これまでのアパレル流通は、「原材料調達→製造→販売→消費→廃棄」という一方通行の直線型(リニアモデル)でした。リコマースは、この流れに「回収→再販」というループを加えることで、循環型(サーキュラーモデル)へと転換させます。
重要なのは、このループが単に環境的な善意から生まれたものではなく、経済的なインセンティブに裏打ちされているという点です。返品商品を廃棄すればコストが発生しますが、再販すれば売上になる。この単純な経済論理が、流通構造の転換を加速させています。
ブランド価値の維持と顧客生涯価値の向上
ブランドがリコマースに参入するもうひとつの理由は、ブランド管理です。
二次流通市場を第三者に委ねると、ブランドは自社商品がどのような状態で、どのような価格で流通しているかを把握できません。偽造品が混入するリスクもあります。しかし、ブランド自身が二次流通を管理すれば、品質を保証し、ブランド体験を一貫してコントロールできます。
さらに、下取りプログラムを通じて顧客と接点を持ち続けることで、顧客生涯価値(LTV)の向上が期待できます。「買って終わり」ではなく、「下取りに出して、また新しい商品を買う」というサイクルが生まれるのです。
環境負荷の大幅削減
もちろん、環境面のインパクトも見逃せません。
ThredUpの試算によると、中古のアパレル商品を1着購入するごとに、新品を製造する場合と比べて約25ポンド(約11キログラム)のCO2排出を回避できるとされています。先ほど紹介したEileen Fisher Renewのケースでは、150万着以上の衣料品を循環させることで約5万ポンドの廃棄物削減を実現しました。
ファッション業界は世界のCO2排出量の約2~8%を占めるとされる産業です。リコマースの普及は、この業界の環境負荷を構造的に削減するための重要な手段となります。
リコマースの課題と今後の展望
リコマースの可能性は大きいですが、課題がないわけではありません。
品質管理と信頼性の担保
最大の課題は、中古品の品質をいかに担保するかです。返品商品や使用済み商品は一点一点状態が異なるため、検品・グレーディングの標準化が不可欠です。海外ではTroveやThredUpがAI技術を活用した検品システムを導入していますが、日本ではまだこの分野のインフラ整備が発展途上にあります。
消費者の側にも「中古品は品質が不安」という心理的なハードルが残っています。ブランドによる品質保証や返品保証の仕組みが、この不安を解消する鍵になるでしょう。
日本市場ならではの可能性
一方で、日本にはリコマースが成長する独自の土壌があります。
まず、メルカリを筆頭とするC2Cプラットフォームの普及率が極めて高い点です。「不要なものを売る」「中古品を買う」という行為に対する心理的抵抗が、特に若い世代では急速に薄れています。メルカリの調査が示すように、Z世代の61.2%が「買った商品を売却して実質的なコストを下げる」ことに満足感を覚えています。
また、日本の消費者は商品の状態に対する要求が厳しく、「丁寧に使う」文化が根付いています。これは中古品の品質が維持されやすいことを意味し、リコマースにとっては大きなアドバンテージです。
2030年に向けて、リコマースは「一部の先進的ブランドの取り組み」から「アパレル業界のスタンダード」へと変わっていくでしょう。ThredUpの予測では、リコマース関連の在庫が2030年までに全小売取引の23%を占めるとされています。この波に乗り遅れるか、先手を打つか。それが、これからのアパレル企業の命運を分けることになるかもしれません。
まとめ
リコマースとは、返品された商品や使用済みの衣料品をブランド自らが再販するビジネスモデルであり、アパレル業界の流通構造を根本から変える可能性を持っています。
米国では年間8,900億ドルの返品が発生し、この「損失」を「資産」に変えるリコマースの経済合理性が認識されつつあります。TroveやThredUpといったプラットフォームが、Patagonia、lululemon、Eileen Fisherなど50以上のグローバルブランドのリセールを支え、日本でもReMUJIやMH RESELLなど、ブランド公式リユースの取り組みが広がっています。
リコマースの本質は、「廃棄されていたものに再び価値を見出す」という発想の転換にあります。製造→販売→廃棄というリニアな流通構造から、製造→販売→回収→再販というサーキュラーな流通構造へ。この転換は、環境負荷の削減だけでなく、ブランド価値の向上や新たな収益源の創出にもつながります。
消費者の立場からも、リコマースの広がりは歓迎すべき変化です。お気に入りのブランドの商品を、より手頃な価格で、しかも品質が保証された状態で購入できる。不要になった衣類を、適正な価格でブランドに買い取ってもらえる。「賢く買って、賢く手放す」。そんな新しい消費のかたちが、リコマースを通じて実現しつつあります。



