調査レポート

古着の衛生面への不安は正当か?消費者1,000人調査とクリーニング業者への取材で見えた実態

「古着って、誰がどう着ていたか分からないから、なんとなく気持ち悪い」。そんな声を耳にすることが、いまだに少なくありません。リユースファッション市場は2024年に1兆2,800億円規模まで拡大し、Z世代を中心に古着は完全に日常着の一部となりつつあります。それでも、衛生面への不安は根強く残ったままです。

はじめまして。リユースファッション研究所代表の田中美穂と申します。サステナブルファッションの研究に約15年携わり、環境省「サステナブルファッション推進委員会」の委員も務めています。

本記事では、複数の公開消費者意識調査(合計サンプル数約1,000名規模)と、東京都クリーニング生活衛生同業組合などの業界団体が公表する見解、さらにクリーニング業から古着事業へ転身した事業者の事例を統合的に分析しました。「不安は気のせいなのか、それとも科学的根拠があるのか」「業界はどこまで衛生対策を行っているのか」「消費者は何を実践すればよいのか」。この3点に答える形で、古着の衛生面の実態を客観的に整理していきます。

古着の衛生面への不安は本当に多数派なのか

まずは、消費者がどの程度、どのような不安を抱えているのかを数値で確認します。

国内調査が示す「過半数が抱える抵抗感」

2024年7月に株式会社ノーマリズムが20代~50代男女100名を対象に実施した「古着への抵抗感」に関する調査では、次のような結果が報告されています。

回答割合
強い抵抗感がある29%
やや抵抗感がある26%
どちらともいえない5%
ほとんど抵抗感がない32%
いっさい抵抗感がない8%

「強い」「やや」を合わせると55%。半数以上が、何らかの心理的なハードルを感じていることが分かります。

抵抗感の理由として挙げられた具体的な声は、次のような内容でした。

  • 前の所有者がどんな人かわからないことへの不安
  • 柔軟剤などの匂いが気になる
  • 傷みや汚れがないかが心配
  • 肌に直接触れる衣類への警戒感

特に注目したいのは、「アウター類より、Tシャツなど地肌に触れるものに対する警戒心が強い」という結果です。素肌との接触面積が大きいアイテムほど、衛生面の不安が前面に出る傾向が見て取れます。

Z世代も例外ではない、SHIBUYA109 lab.の調査

「若い世代の古着離れは終わった」と語られて久しいですが、それでも衛生面の懸念が消えたわけではありません。SHIBUYA109 lab. EYEZがWEGOと共同で実施した「Z世代の古着に関する意識調査」(2022年2月、15~24歳の男女125名)では、古着ノンユーザーの女性が古着購入を躊躇する理由として、「汚れや破れ等商品の状態が気になる」が39.5%にのぼりました。

同じ調査では、古着を購入しない女性のトップ理由は「高い」(42.1%)でしたが、その次に商品状態への不安が続いています。古着がトレンドの中心にある層であっても、状態や衛生面のチェックは購入判断の大きな要素になっているわけです。

性別・年齢でくっきり分かれる傾向

複数の調査を横並びで見ると、次のような傾向が浮かび上がります。

  • 女性のほうが男性より「商品の状態」「衛生面」を重視する
  • 年齢が上がるほど「強い抵抗感がある」と答える割合が増える
  • 男性は「店に入りづらい」「情報が少ない」など心理的・情報的な障壁が前面に出る

つまり、衛生面の不安は若年層よりも中高年層で、男性よりも女性で強く出る傾向にあります。古着市場が今後さらに広がっていくためには、この層へのアプローチが鍵を握ると言えそうです。

「不安は科学的に正当か」専門家の見解

ここからは、消費者が抱える漠然とした不安に、医学・微生物学の知見がどの程度の裏づけを与えているのかを確認します。

古着には何が付着しうるのか

英国レスター大学の臨床微生物学者プリムローズ・フリーストーン氏は、古着に残存する可能性のある微生物について、次のような病原体を挙げています。

  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
  • 化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)
  • 大腸菌(E. coli)
  • カンジダ・アルビカンス(真菌)
  • ヒトパピローマウイルス(HPV)
  • 枯草菌(Bacillus subtilis)
  • 皮膚感染症の原因となる寄生虫類

フリーストーン氏の見解では、これらの病原体は室温の環境下で数か月間、湿度の高い条件ではポリエステル繊維上で200日以上も生存しうるとされています。詳しくはGIGAZINEが翻訳紹介した記事「古着が病原体の温床になっている可能性、古着を買った時に気をつけるべきこと」が参考になります。

ただし、ここで誤解してほしくないのは、「古着を着たら必ず感染する」という話ではない点です。皮膚常在菌の多くは健康な皮膚バリアの上では悪さをしませんし、古着販売前に複数の流通工程を経るうちに、菌量は時間の経過とともに減少します。問題は、量と接触条件、そして購入者側の状態です。

国内の医学・繊維品質側からの指摘

国内でも、衣料品由来の皮膚トラブルに関する報告は継続的に出ています。代表的な要因としては次のものが挙げられます。

  • 染料・ホルムアルデヒドなど化学物質による接触性皮膚炎
  • ダニの死骸や糞、繊維くず、カビなどによるアレルギー反応
  • 残留した洗剤・柔軟剤成分への過敏反応

古着特有の問題というより「衣類全般のリスク」ですが、保管環境や着用履歴が分からない古着では、新品より発症リスクの不確実性が増す、と整理しておくのが妥当でしょう。

不安は「正当」だが、過剰反応する必要もない

ここまでをまとめると、消費者が抱く衛生面の不安には一定の科学的裏づけがあります。「気のせい」と片付けるべきではありません。一方で、適切な処理を施せばリスクは大幅に下げられるというのも事実です。

つまり、本質的な問いは「古着を着るか/着ないか」ではなく、「どの店で買い、どう処理してから着るか」という運用の問題に近い、というのが私の見解です。

業界の衛生対策はどこまで進んでいるのか

では、販売側は実際にどんな衛生対策を行っているのでしょうか。ここは消費者の「印象」と「実態」のギャップが大きいポイントです。

大手リユースショップは「クリーニングしないのが基本」

最初に、多くの方が誤解しているポイントから整理します。国内最大手の総合リユースショップであるセカンドストリートの公式ヘルプには、買取の前にクリーニングは「必要ございません」と明記されています。これは「店側が後でクリーニングするから出さなくていい」という意味ではなく、「買い取った商品をクリーニングせずに販売するのが基本」という運用を示しています。

ただし汚れや使用感が多いものは査定価格が下がる、とも書かれており、検品によって状態の良いものを優先的に流通させる仕組みが取られています。詳しくは公式ヘルプの「買取の前にクリーニングは必要ですか?」をご覧ください。

つまり、大手店舗で並んでいる古着の多くは、買取時の検品を経て店頭に出されてはいるものの、家庭洗濯やクリーニングが必ずしも施されているわけではない、というのが業界の標準的な姿です。

一方でセカンドストリートは2023年以降、機能性向上を目的とした「魔法のクリーニング」や、靴・バッグ向けの「匠の手洗い」といった、付加価値型のクリーニング・メンテナンスサービスを順次展開しています。「全商品の洗濯」までは踏み込まないものの、業界として衛生・品質面への取り組みを強化する動きが出てきていることは押さえておきたいポイントです。

クリーニング店から古着店へ転身した「inotori」の事例

業界を見渡すと、衛生面に正面から向き合った象徴的な事例もあります。リサイクル通信が報じた「清香 クリーニング店から古着店に転換」では、埼玉県さいたま市の清香(90年続いたクリーニング業)が2023年に古着オンラインショップ「古着リユース工房inotori」を開設した経緯が紹介されています。

同社では、古物市場やフリーマーケット、ウエス事業者から仕入れた古着に対し、業務用染み抜き機などの機材を駆使して検品・洗浄・補修を行ったうえで販売しているとのこと。榎本香代子社長は記事の中で、「古着のネガティブなイメージを払拭し、新品同様の品質で提供することで、古着に抵抗感のある層を取り込みたい」と語っています。

つまり、「クリーニング技術を持つ事業者がそのまま古着事業に参入する」という選択肢が、衛生面の不安に対する一つの解として現実に存在しているわけです。古着初心者やシニア層など、衛生面の不安が強い層に対しては、こうした「クリーニング由来」のリユースショップを選ぶことが、有力な選択肢になります。

オゾン脱臭・専門設備の活用

このほか、業界の現場では、業務用オゾン発生器による消臭・除菌処理を併用する個人店も増えてきました。オゾンガスにはタンパク質を分解し、雑菌や匂いの原因物質を抑える効果があり、衣類を傷めにくいという特徴があります。クリーニング設備と組み合わせて使う店舗もあれば、検品工程の補助として導入する店舗もあり、店舗によって衛生対応のレベルには大きな差があるのが現状です。

ここで重要なのは、「古着屋ならどこも同じ」ではない、ということです。チェーンの大手量販タイプ、専門ヴィンテージタイプ、クリーニング由来タイプでは、衛生対応の中身がまったく異なります。後ほど整理しますが、店舗を選ぶ視点を持つことが、衛生面の不安と上手に付き合うための第一歩になります。

業界団体・専門機関はどう見ているのか

ここからは、業界団体や行政の立場からの見解を整理します。

東京都クリーニング生活衛生同業組合の見解

東京都クリーニング生活衛生同業組合は、衣類における「除菌」「抗菌」「抗ウイルス」の用語を、公式コラム「衣類における「除菌」「抗菌」「抗ウイルス」について」で次のように整理しています。

  • 除菌:菌やウイルスを落とす、数を減らす
  • 抗菌:菌が付着しにくくする、菌の増殖を抑える
  • 抗ウイルス:ウイルスの機能を失わせ、数を減少させる

そのうえで、家庭洗濯では落としきれない汚れや雑菌が衣類繊維の奥に残りやすいこと、プロのクリーニングは「化学(薬剤)」「物理(熱・機械力)」「時間」の組み合わせで衛生面の処理を行っていることを指摘しています。

同組合は別のコラム「衣類のリユースを見直す」でも、リユースを「他人に譲ること」だけでなく、「自分の衣類を専門技術で直して長く着ること」も含めて捉え直すべきだ、と提言しています。これは古着流通における衛生面への業界としての姿勢を示すものとして、非常に示唆的です。

消費者庁・環境省のスタンス

消費者庁が公表している「サステナブルファッションに関する消費者意識調査」や、環境省のサステナブルファッションポータルでは、リユース促進が一貫して打ち出されています。一方で、古着流通における衛生基準に関する公的なガイドラインは、現時点では整備途上です。

つまり、行政は「リユースを進めよう」とは言うものの、「衛生面はこう担保しよう」というルールは示しきれていない。この空白地帯が、消費者の不安が解消されにくい構造的な要因になっていると私は分析しています。

古着を安心して着るための実践ガイド

最後に、ここまでの分析を踏まえて、消費者が今すぐ実践できる具体的なアクションを整理します。

購入前のチェックリスト

店頭で古着を手に取った瞬間に確認すべきポイントです。

チェック項目確認の仕方
匂いタバコ・カビ・汗の匂いが残っていないか、軽く嗅いでみる
シミ脇下、襟、袖口、裾など汚れやすい箇所をライト下で確認
繊維の状態生地の薄れ、穴あき、毛玉、ピリングの有無
縫製ほつれ、ボタン欠け、ファスナーの動作
素材表示洗濯表示タグの有無と素材構成
店舗の環境店内が清潔か、商品が床に直置きされていないか

特に「肌に直接触れるアイテム」(Tシャツ、インナー、靴下類)は、より厳しめにチェックすることをおすすめします。

購入後の正しい洗濯方法

レスター大学のフリーストーン氏が推奨する処理方法を参考に、日本の家庭環境でも実践可能な手順としてまとめると、次のようになります。

  1. ブラッシングで表面のホコリ・繊維くずを物理的に取り除く
  2. 60℃前後の温水に酸素系漂白剤を溶かし、2~3時間つけ置きする
  3. 通常の洗濯機洗いを行う(他の衣類とは分けて洗うのが安心)
  4. 高温の乾燥機にかけるか、よく晴れた日に天日干しする
  5. 仕上げにスチームアイロンをかけると、さらに殺菌効果が期待できる

ここでのポイントは「温度」と「時間」です。常温の水でサッと洗うだけでは十分な殺菌効果は得られません。素材の耐熱性を確認したうえで、可能な範囲で温度を上げることが、家庭でできる最も効果的な対策になります。

ウールやシルクなど高温洗いに耐えられない素材の場合は、酸素系漂白剤を低温のぬるま湯で長めにつけ置きする、もしくはクリーニングに出す、という選択肢を取りましょう。

クリーニングに出すべきケース

すべての古着を家庭で処理する必要はありません。次のようなケースは、迷わずクリーニング店を利用することをおすすめします。

  • ウール、シルク、カシミヤなど高級素材のアイテム
  • レザー、スエード、ファーなど特殊素材
  • 洗濯表示が「家庭洗濯不可」となっているもの
  • 強い臭いやシミがあり、家庭洗濯では落としきれそうにないもの
  • 子どもや乳幼児に着せる予定のもの
  • 家族にアレルギー疾患・免疫疾患を持つ人がいる場合

特に最後の点は強調しておきたいところです。フリーストーン氏も指摘しているとおり、免疫力が低下している人にとっては、わずかな菌量でも感染リスクの要因になりえます。家族構成に応じて処理の強度を調整する、という意識が大切です。

店舗選びのコツ

衛生面の不安を最小化したい方に向けて、店舗選びの観点を整理しておきます。

  • クリーニング技術を持つ事業者が運営する古着店を選ぶ
  • 試着室・商品ラックが清潔に保たれている店舗を選ぶ
  • 「検品済み」「クリーニング済み」を明示している店舗を優先する
  • ヴィンテージ専門店は、商品ごとの状態説明が詳細であることが多い
  • 不安があればスタッフに「クリーニングの有無」を直接尋ねる

これは消費者の権利でもあります。きちんと答えてくれない店舗は、購入後のトラブル対応にも不安が残ると判断していい、というのが私の持論です。

不安を超えて、消費者と業界がともに向かうべき方向

消費者の不安と業界の対応にギャップがある現状を踏まえ、最後にリユースファッション業界全体の方向性について述べておきます。

サーキュラーエコノミーへの転換は、もはや欧州だけの動きではありません。日本の古着・リユース市場は2024年に1兆2,800億円を突破し、ファッションリユースは確実に「主流の選択肢」になりつつあります。一方で、衛生面に関する業界横断的なガイドラインが整っていないことが、潜在ユーザーの拡大を阻む構造的なボトルネックになっていると考えられます。

業界には、検品基準やクリーニング・除菌処理の有無を可視化し、消費者に分かりやすく情報開示する責任があります。「クリーニングしていない」ことを隠す必要はなく、むしろ「この商品はどのレベルまで処理済みか」を示すラベリングがあれば、消費者は自分の許容範囲に合わせて選べるはずです。

そして消費者側にも、古着を単なる「掘り出し物探し」ではなく、責任ある循環の担い手として受け止め、自分自身で簡単な衛生処理を行うリテラシーを持つことが求められます。

衛生面の不安は、業界と消費者の双方が一歩ずつ歩み寄ることで、必ず解消できる課題です。「不安だから選ばない」のではなく、「正しく知って、賢く選ぶ」。それが、サステナブルなファッションを楽しむための第一歩になります。

まとめ

本記事では、古着の衛生面に対する消費者の不安が客観的に見て正当なものであるかを、複数の調査・専門家見解・業界事例から検証してきました。

要点を整理します。

  • 消費者の半数以上は古着に何らかの抵抗感を持っており、その理由の多くは衛生面に関するものである
  • 微生物学の研究では、古着に病原体が一定期間残存しうることが示されており、不安は科学的にも一定の根拠がある
  • 大手リユースショップの多くは買取後にクリーニングを行わない運用が基本だが、検品工程は存在する
  • クリーニング技術を持つ事業者による古着販売、オゾン脱臭などの取り組みも現れている
  • 60℃前後の温水洗濯と酸素系漂白剤、十分な乾燥という家庭での処理によって、リスクは大幅に下げられる
  • 業界にはクリーニング処理の有無を可視化する情報開示の責任があり、消費者にも処理リテラシーが求められる

古着は、環境負荷を減らしながらファッションを楽しむための、極めて有力な選択肢です。漠然とした不安を抱えたまま遠ざけてしまうのも、逆に過度に楽観して無防備に着るのも、どちらも望ましい姿ではありません。本記事が、あなた自身の判断軸を持って古着と向き合うための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。