業界インサイト

なぜ古着のせどりは難しくなったのか?プラットフォーム手数料と競争激化の構造分析

「古着せどりで月10万円稼ぐ」。数年前までは、SNSや情報商材でよく見かけたフレーズです。しかし2025年以降、この言葉を額面どおりに受け取る人は減りました。かつて副業の登竜門とされた古着せどりが、なぜこれほど厳しい環境に置かれているのか。その背景には、プラットフォーム手数料の構造的問題と、市場全体の競争激化という2つの大きな変化があります。

私は、サステナブルファッション研究者として10年以上、リユースファッション市場の動向を追い続けてきました。かつて三菱商事でリユース事業の新規開発に携わり、現在は早稲田大学客員研究員として循環型ファッション経済を研究しています。この記事では、感情論ではなく統計データと構造分析に基づいて、古着せどりの「何が」「なぜ」難しくなったのかを明らかにしていきます。

急成長するリユースファッション市場の光と影

1兆円を超えた国内ファッションリユース市場

まず押さえておきたいのは、古着市場そのものは衰退していないという事実です。むしろ、急拡大を続けています。

矢野経済研究所の調査によると、2023年の国内ファッションリユース市場規模は前年比113.9%の1兆1,500億円に達しました。2024年には1兆2,800億円(前年比111.3%)へとさらに拡大し、ファッション分野のリユース市場は初めて1兆円の大台を突破しています。

この成長を牽引しているのは、環境意識の高まり、フリマアプリの普及、そしてZ世代を中心とした古着文化の浸透です。アパレル企業がサステナビリティ経営の一環として不良在庫をリユース市場へ流通させる動きも加速しており、供給面からも市場の拡大が後押しされています。

市場そのものは「伸びている」。にもかかわらず、個人の古着せどりが苦しくなっている。このギャップにこそ、構造的な問題が潜んでいます。

CtoC市場の成長鈍化が示す転換点

リサイクル通信が発表した「リユース業界の市場規模推計2025」のデータは、興味深い変化を示しています。

販路区分2024年市場規模前年比成長率
店舗販売(BtoC)1兆2,380億円+8.2%
ネット販売(BtoC)+4.4%
フリマアプリ等(CtoC)+1.4%

リユース市場全体は3兆2,628億円(前年比4.5%増)と15年連続の成長を記録しています。ところが、フリマアプリを中心とするCtoC市場の成長率は、前年に続いて鈍化し、わずか1.4%増にとどまりました。同レポートでは「2025年は前年割れになってもおかしくない状況」とまで指摘されています。

BtoC事業者が8%以上の成長を見せる一方で、CtoCが伸び悩む。この非対称な成長パターンが、個人の古着せどりが直面している環境の厳しさを如実に物語っています。

なぜCtoCだけが鈍化しているのか。理由は単純で、CtoC市場はすでに「出品者の飽和」に近い状態に達しているためです。フリマアプリの利用が当たり前になり、不用品を売る一般消費者が大量に参入した結果、かつてせどらーが独占していた「相場より安く出品する個人」という仕入れ源が枯渇しつつあります。消費者自身がメルカリで直接売る時代に、わざわざリサイクルショップへ持ち込む人が減った。仕入れの競争が激しくなり、利ざやが縮小する構造ができあがっています。

プラットフォーム手数料が利益を侵食する構造

主要プラットフォームの手数料比較

古着せどりの収益構造を理解するうえで避けて通れないのが、プラットフォーム手数料の問題です。2026年時点の主要プラットフォームの手数料体系を整理します。

プラットフォーム販売手数料振込手数料特徴
メルカリ10%(固定)200円ユーザー数最大、即売力あり
Yahoo!フリマ5%(固定)100円最安、ただしユーザー数で劣る
楽天ラクマ4.5〜10%(変動制)210円実績次第で手数料が変動
ヤフオク!10%(非会員)8.8%(プレミアム会員/月額508円)

一見すると選択肢は豊富に見えます。しかし実態として、ユーザー数と流動性の高さから「売れやすさ」で圧倒的に優位なメルカリを選ばざるを得ないケースが多い。メルカリの手数料10%は業界最高水準であり、売上の1割がプラットフォームに吸い上げられる構造が常態化しています。

ラクマの変動制導入が意味すること

注目すべきは、2023年8月に実施されたラクマの手数料改定です。それまでの一律6.6%(税込)から、4.5%〜10%の6段階変動制へと移行しました。

  • 月10回以上販売+売上10万円以上 → 4.5%
  • 月6回以上販売+売上1万円以上 → 8%
  • 月4回以上販売+売上5,000円以上 → 9%
  • 上記を満たさない → 10%

この変動制の本質は「たくさん売る人を優遇し、たまに売る人からは高く取る」というものです。副業レベルの個人せどらーは、多くの場合10%の最高税率を適用されることになります。かつては「ラクマなら手数料が安い」という優位性がありましたが、ライトユーザーにとっては事実上メルカリと同水準まで引き上げられたことを意味しています。

送料値上げが追い打ちをかける

プラットフォーム手数料に加え、物流コストの上昇も深刻です。

2024年10月には郵便料金が改定され、定形郵便は84円から110円へ、はがきは63円から85円へと大幅に値上がりしました。さらにヤマト運輸は2025年10月から宅急便運賃の改定を発表し、120サイズ以上で190円〜最大750円の値上げとなる見込みです。

背景にあるのは燃料費・資材費の上昇、ドライバー不足に伴う人件費高騰、そして物流の「2024年問題」。これらの構造的要因は今後も改善する見込みが薄く、送料コストは上がることはあっても下がることは考えにくい状況です。

古着は軽量ではあるものの、シワを防ぐため畳み方やパッキングにサイズが必要で、60サイズ(750円)に収まらず80サイズ(850円)以上になることも珍しくありません。冬物のアウターやコートに至っては100サイズ(1,050円)を超えるケースもあります。販売価格が2,000〜3,000円帯の商品では、送料だけで売上の3〜4割を占めてしまう計算になります。

競争環境の構造的変化

大手チェーンの台頭と個人プレイヤーの苦境

古着せどりの競争環境を根本から変えたのが、セカンドストリートに代表される大手リユースチェーンの急拡大です。

ゲオホールディングス傘下のセカンドストリートは、2026年2月時点で国内928店舗を展開し、2027年には1,000店体制を目指しています。衣料専門店、ブランド専門店、買取専門店、アウトドア特化型など、立地特性に応じて業態を細分化する「ドミナント戦略の高度化」を推進中です。

大手チェーンの強みは明白です。

  • 規模の経済による仕入れ価格の圧縮
  • 商圏分析に基づく出店で空白市場を補足
  • 広告宣伝費による集客力
  • 品質管理体制の標準化

個人せどらーが週末にセカンドストリートで仕入れ、メルカリで転売するという構図自体が、すでに大手チェーンの販売網と直接競合する関係にあります。同じ商品を、大手は店舗在庫として低コストで販売でき、個人は手数料と送料を上乗せして販売する。価格競争では勝ち目がありません。

メルカリ40億品時代のレッドオーシャン化

2024年9月、メルカリの累計出品数は40億品を突破しました。サービス開始から約11年での達成です。一方、月間アクティブユーザー数は2024年10〜12月期に2,279万人で、前年同期比3%減と初めて前年割れを記録しています。

出品数は増え続けるのに利用者は微減。つまり、1人あたりが閲覧する出品数が増え、個々の出品が埋もれるリスクが高まっている状態です。特に古着のような「1点もの」は、検索で見つけてもらえなければ永遠に売れません。新着順のタイムラインでは数分もすれば次の出品に押し流され、再出品を繰り返さなければ露出を維持できないのが現実です。

さらに、メルカリは越境取引にも力を入れており、約120の国・地域で商品が閲覧される仕組みになっています。一見チャンスに見えますが、これは同時に海外の安価な古着(特にアジアからの大量出品)との価格競争にもさらされることを意味しています。

ファッションカテゴリの相対的地位低下

メルカリの取引構成比にも変化が生じています。かつて4割近くを占めていたレディースファッションのシェアは2割弱にまで縮小し、代わりに「エンタメ・ホビー」カテゴリが4割以上のシェアを獲得しています。推し活ブームやトレーディングカード需要の拡大が背景にあります。

プラットフォーム側から見れば、成長カテゴリに注力するのは当然の経営判断です。結果として、ファッションカテゴリへのアルゴリズム上の優遇が相対的に低下している可能性があります。

コスト構造から見る「稼げない」メカニズム

1着あたりの隠れたコストを可視化する

古着せどりの収益性を正確に把握するには、「売上 − 仕入れ値」だけでは不十分です。実際にかかるコストを分解してみましょう。

1着を出品して販売するまでの工程と時間は以下のとおりです。

  • 仕入れ(リサイクルショップ巡回含む):30分〜1時間
  • 洗濯・ケア・検品:20〜30分
  • 撮影(5〜7枚)・画像加工:15〜20分
  • 採寸:10〜15分
  • 商品説明文の作成:10〜15分
  • 梱包・発送:15〜20分

合計すると、1着あたり約1時間半〜2時間半。副業で取り組む場合、1日に3〜5着出品できれば上出来とされています。

利益率の理論値と実態の乖離

具体的な数字でシミュレーションしてみます。リサイクルショップで500円で仕入れた古着を、メルカリで2,000円で販売した場合を考えます。

項目金額
販売価格2,000円
仕入れ原価−500円
メルカリ手数料(10%)−200円
送料(らくらくメルカリ便・60サイズ)−750円
梱包資材費−50円
手取り利益500円

利益率は25%。しかしここに「時間コスト」は含まれていません。1着に2時間かけたとすれば、時給換算250円。最低賃金を大幅に下回ります。

もちろん、ブランド品やヴィンテージ品で高単価販売ができれば話は変わります。しかし、そうした商品を安定的に仕入れるには相応の目利き力と仕入れルートが必要であり、初心者が簡単に参入できる領域ではありません。

100着出品してようやく1日1着売れるペースという報告もあり、在庫回転率の低さがキャッシュフローを圧迫する構造は、個人にとって大きなリスク要因です。月に15万円の利益を出すためには500着程度の出品在庫が必要とされ、そこに到達するまでに100〜180日を要するとの試算もあります。

加えて、古着はすべて1点ものです。型番商品のように「売れたから同じ商品を追加発注する」ことができません。常に新しい仕入れ先を開拓し、目利きを繰り返す必要がある。この再現性の低さが、事業としてスケールしにくい本質的な構造上の弱点です。

今後の展望と生き残りのための戦略転換

BtoC事業者との差別化戦略

大手チェーンとの競争を避けるには、彼らが手を出しにくい領域に注力する必要があります。具体的には以下のようなアプローチが考えられます。

  • 特定ブランドやジャンルへの専門特化(ミリタリー、アウトドア、70年代ヴィンテージなど)
  • ストーリーテリングによる付加価値創出(商品の歴史や着こなし提案)
  • コミュニティ形成による固定客の獲得

セカンドストリートが「効率的な大量処理」で勝負しているのに対して、個人は「深い知識と丁寧なキュレーション」で差別化する方向性です。実際に、特定の年代やブランドに特化したセラーは、フォロワーを抱えてリピート購入につなげている事例があります。汎用品で価格競争に巻き込まれるのではなく、「この人から買いたい」と思わせる専門性の構築が生命線になります。

プラットフォーム選択の最適化

手数料の負担を軽減するには、プラットフォームの使い分けが有効です。

  • 高単価品(5,000円以上):メルカリ(ユーザー数の多さで早期売却を狙う)
  • 中単価品(2,000〜5,000円):Yahoo!フリマ(手数料5%の優位性を活かす)
  • 大量出品する場合:ラクマ(変動制で4.5%まで下げる可能性)

また、BASEやSTORESなどの自社ECプラットフォームへの移行も選択肢に入ります。手数料は3〜5%程度に抑えられますが、集客は自力で行う必要があるため、InstagramやTikTokでのコンテンツ発信との組み合わせが前提です。古着のスタイリング提案や入荷情報をSNSで発信し、自社ショップへ誘導する導線を構築できれば、プラットフォーム依存から脱却する道が拓けます。

サステナビリティ視点からの再定義

私が研究者として強調したいのは、古着の流通が持つ社会的意義です。環境省のサステナブルファッションに関する取り組みでも示されているように、衣類の大量廃棄は深刻な環境問題であり、リユースの促進は持続可能な社会の実現に不可欠です。

古着せどりを「転売で稼ぐビジネス」としてだけ見るのではなく、「衣類の循環を促進する社会的活動」として再定義する視点が必要です。日本では年間約48万トンの衣類が廃棄されており、そのうちリサイクル・リユースされるのはわずか3割程度にすぎません。

個人の古着流通は、こうした廃棄問題を草の根レベルで解決する活動でもあります。短期的な利益追求から長期的な価値創造へとマインドセットを転換し、環境意識の高い消費者とつながることで、「安いから買う」ではなく「この人が選んだから買う」という関係性を構築していく。それが、手数料や価格競争に左右されない持続可能なビジネスモデルにつながるはずです。

まとめ

古着せどりが「難しくなった」背景には、プラットフォーム手数料の高止まり(メルカリ10%、ラクマの変動制による実質値上げ)、送料の継続的上昇、大手チェーンの急拡大による競争激化、そしてCtoC市場そのものの成長鈍化という複合的な構造要因があります。

市場は伸びている。しかし、その成長の果実を手にしているのは、規模の経済を武器にする大手BtoC事業者であり、個人のCtoC参加者ではありません。この構造的な非対称が、「市場は拡大しているのに個人は稼げない」という矛盾の正体です。

今後も古着の流通に関わっていくのであれば、安易な転売差益を追うのではなく、専門性・コミュニティ・環境価値といった、大手が模倣しにくい独自の付加価値を構築していく視点が求められます。