調査レポート

【独自調査】ミレニアル世代 vs Z世代:古着購入動機とサステナビリティ意識の違いを徹底分析

近年、ファッション業界における「サステナビリティ」や「サーキュラーエコノミー」への関心は、単なるトレンドを越え、事業戦略の根幹を成す重要なテーマとなっています。
国連の報告によれば、ファッション産業は世界の温室効果ガス排出量の最大8%を占めるとされ、その環境負荷の大きさが指摘されています。
このような背景の中、リユース(古着)市場は驚異的な成長を遂げています。

環境省のデータによると、日本国内では年間約50万トン以上の衣類が家庭から廃棄されており、その多くが焼却・埋め立て処分されています。
この「大量生産・大量消費・大量廃棄」というリニアエコノミー(直線型経済)モデルからの脱却が急務とされる中、古着市場は新たな解決策として注目を集めているのです。

実際に、日本のリユース市場規模は2023年に3兆円を突破し、2030年には4兆円規模への拡大が予測されています。
この力強い成長を牽引しているのが、ミレニアル世代(1980年代前半〜1990年代中盤生まれ)とZ世代(1990年代後半〜2010年代序盤生まれ)です。
しかし、両者の消費行動や価値観は、似ているようでいて、その根底にある動機は大きく異なります。
本稿では、データと事例に基づき、これら2つの世代の古着購入動機とサステナビリティ意識の違いを深く分析し、未来のファッション市場への示唆を探ります。

【データ分析】ミレニアル世代 vs Z世代:古着購入動機の違い

ミレニアル世代とZ世代は、共にデジタル技術に親しんだ「デジタルネイティブ」として一括りにされがちですが、その消費行動には明確な差異が見られます。
古着の購入においても、その動機は大きく異なります。
ここでは、それぞれの世代が持つ特徴的な購入動機を、具体的なデータや調査結果を交えながら分析していきます。

ミレニアル世代:「賢い消費」と「質の追求」のハイブリッド

インターネットの発展と共に成長したミレニアル世代は、情報収集と価格比較に長けています。
彼らの消費行動は「コストパフォーマンス」を重視する合理的な側面と、自らの価値観に合うものには投資を惜しまない「こだわり」の側面を併せ持つのが特徴です。

古着購入において、この世代は以下の動機が強いと考えられます。

  • 経済的合理性: 定価では手の届きにくいブランド品を、リユース市場で賢く手に入れることを重視します。これは単なる節約ではなく、「価値あるものを適正価格で手に入れる」という投資的な側面も持ち合わせています。
  • 品質とストーリー: バブル期を経験した親世代の影響もあり、質の良いものを長く使うという価値観を持つ層も少なくありません。そのため、過去の名作や、現行品にはない高品質な素材・縫製のヴィンテージ品に価値を見出します。
  • 所有からの解放: モノを「所有」することよりも、必要な時に利用する「共有(シェア)」を好む傾向があり、リユース品の売買は、クローゼットを循環させる合理的な手段と捉えられています。

J-Net21の分析によると、ミレニアル世代は購入前に商品やサービスについてじっくり調べ、友人やオンラインレビューの影響を受けつつも、最終的には自らの価値観で品質と価格のバランスを判断する傾向があります。

Z世代:「自己表現」と「倫理観」を重視する“リユースネイティブ”

生まれた時からスマートフォンやSNSが身近にあるZ世代は、価値観が極めて多様化しており、「個性」や「自己表現」を何よりも重視します。
彼らにとって古着は、他人と被らないユニークなスタイルを実現するための重要なファッションアイテムです。

Z世代の古着購入動機は、以下の点が特徴的です。

  • アイデンティティの表現: ファストファッションのように画一的ではなく、一点ものの古着を組み合わせることで、自分だけのオリジナリティを表現します。SNSでの発信を前提とした消費行動も多く、見た目のインパクトや「映え」も重要な要素です。
  • 倫理的・社会的価値: Z世代は、企業の環境問題や社会問題への取り組みに非常に敏感です。Blue Yonderの調査によれば、Z世代の85%がサステナビリティを重要視しており、古着を選ぶ行為そのものが、環境負荷の高い大量生産システムへの意思表示であると捉えています。
  • リセールバリュー意識: モノを購入する時点から、使い終わった後に売却すること(リセール)を前提に考える傾向が強い世代です。コメ兵ホールディングスの調査では、Z世代は他の世代に比べてリセールバリューを意識して購入する割合が最も高いことが示されています。

世代別データ比較:古着購入で重視するポイント

両世代の価値観の違いを、以下の表にまとめました。
これは各種調査から導き出される傾向を整理したものです。

項目ミレニアル世代Z世代
主な購入動機経済的合理性、品質、資産価値自己表現、個性、倫理観、共感
情報源比較サイト、レビュー、友人・知人SNS(Instagram, TikTok)、インフルエンサー
重視する価値コストパフォーマンス、耐久性、ブランドの信頼性オリジナリティ、ストーリー性、企業の透明性
サステナビリティ「賢い選択」の結果としてのエコ「当然の配慮」としての倫理的消費
消費スタイル所有と共有のバランス体験、共感、リセールを前提とした循環型

サステナビリティ意識の深層:Z世代はなぜ環境を重視するのか

古着購入の動機にも表れているように、特にZ世代のサステナビリティに対する意識の高さは際立っています。
しかし、その意識は一枚岩ではなく、複雑な内面も抱えています。
ここでは、両世代のサステナビリティ意識の背景にある心理や社会構造を深掘りします。

「ごめんね消費」という葛藤:理想と現実の狭間で

デカボLabが実施した調査によると、Z世代の約52.3%が、環境への悪影響を認識しつつも価格やデザインに惹かれてファストファッションを購入してしまう「ごめんね消費」を経験していることが明らかになりました。
これは、彼らがサステナビリティを理想としながらも、経済的な制約やトレンドへの欲求との間で葛藤している実態を示しています。

一方で、同調査では約25%がウルトラファストファッションの購入を避ける選択をしており、友人など身近なコミュニティからの情報が行動変容のきっかけになることも指摘されています。
このように、Z世代のサステナビリティ意識は、社会的な課題への共感と、個人のリアルな生活とのバランスの中で形成されていると言えるでしょう。

ミレニアル世代の環境意識:ライフイベントと実用性の観点から

ミレニアル世代のサステナビリティ意識は、Z世代とは異なる文脈で醸成されています。
彼らは就職、結婚、出産といったライフイベントを経験する中で、より長期的で実用的な視点を持つようになります。

  • 品質と耐久性: 「良いものを長く使う」という考え方は、結果的に廃棄物を減らすサステナブルな行動に繋がります。
  • 次世代への責任: 親になる世代も多く、子どもたちの未来のために環境に配慮したいという意識が芽生える傾向があります。
  • 健康志向: オーガニック製品や自然由来の素材への関心が高く、それが衣類の選択にも影響を与えることがあります。

彼らにとってのサステナビリティは、倫理的な正しさだけでなく、自らの生活の質や家族の未来と結びついた、より実利的な動機に基づいていると考えられます。

企業の透明性(トレーサビリティ)への眼差し

両世代に共通して言えるのは、企業の姿勢を厳しく見ているという点です。
特にZ世代は、単に「環境に優しい」と謳うだけの「グリーンウォッシュ(見せかけのエコ)」に批判的です。

Z世代は企業の発言よりも、実際の行動を重視しています。特に「環境に配慮している」といった表面的な主張には厳しく、約半数が企業のサステナビリティに関する発信を「時々しか信用できない」と考えています。(Emily.アメリカガイドより引用)

サプライチェーンの透明性を確保し、どこで、誰が、どのように製品を作っているのかを具体的に示すことが、これからの世代の信頼を得る上で不可欠となっています。

国内外の先進事例:サーキュラーエコノミーを実装する企業たち

世代間の価値観の変化を捉え、ビジネスモデルを「サーキュラー型」へと転換する企業が増えています。
ここでは、その先進的な事例を紹介し、成功の要因を探ります。

海外事例:Patagoniaが示す「所有から利用へ」の哲学

アウトドアブランドのPatagoniaは、サステナブルファッションのパイオニアとして知られています。
同社は製品の修理サービス「Worn Wear®」を長年提供し、製品寿命の延長に努めてきました。
さらに、中古品の買い取り・再販プログラムも展開し、自社で製品の循環サイクルを構築しています。

彼らの取り組みは、単なるリサイクルに留まりません。
「新品を買わないで」という広告を打ち出すなど、消費者に大量消費社会そのものへ問いを投げかけることで、ブランドの哲学を伝え、熱心なファンコミュニティを形成しています。
これは、企業の倫理性を重視するZ世代の価値観と強く共鳴するものです。

国内事例:メルカリ、BEAMSなど多様化するリユースの形

日本国内でも、サーキュラーエコノミーへの取り組みは加速しています。

  • メルカリ: 日本最大のフリマアプリとして、個人間(CtoC)のリユース市場を確立しました。手軽に売買できるプラットフォームを提供することで、「捨てる」以外の選択肢を一般化させ、二次流通市場の活性化に大きく貢献しています。
  • BEAMS: 大手セレクトショップであるBEAMSは、「つづく服。」をスローガンに、店舗での衣類回収やアップサイクルプロジェクトを推進しています。企業が主体となって回収・再資源化の仕組みを構築することで、消費者が気軽に参加できる循環の輪を生み出しています。
  • BRING(日本環境設計): 独自の化学リサイクル技術を用いて、回収したポリエステル繊維を何度でも再生し、新たな服へと生まれ変わらせるブランドです。技術力によってマテリアルリサイクルの課題を克服し、完全な循環型ファッションの実現を目指しています。

これらの事例は、リユースが単なる中古品売買ではなく、企業のビジネスモデルやテクノロジーと結びつくことで、多様な形で社会に実装され始めていることを示しています。

考察・提言:2つの世代を捉え、持続可能な市場を創造するために

これまでの分析を踏まえ、ファッション企業がミレニアル世代とZ世代をターゲットに、持続可能なビジネスを展開するための3つの提言を行います。
世代ごとのインサイトを的確に捉え、具体的なアクションに繋げることが重要です。

提言1:ミレニアル世代には「資産価値」と「ストーリー」を訴求

合理性とこだわりを両立させたいミレニアル世代に対しては、リユース品の「資産価値」を訴求することが有効です。
品質が高く、時代を超えて愛されるデザインの製品は、将来的に価値が下がりにくい、あるいは価値が上がる可能性すらある「賢い投資」であることを伝えるのです。
また、製品が持つ歴史や職人の技術といった「ストーリー」を丁寧に伝えることで、彼らの知的好奇心と所有欲を満たすことができます。

提言2:Z世代には「参加型」と「透明性」でエンゲージメントを

自己表現と社会貢献を同時に満たしたいZ世代には、彼らが「参加」できる仕組みを提供することが重要です。
例えば、衣類回収プログラムへの参加や、アップサイクル製品のデザインコンテストなど、消費者を受動的な存在ではなく、ブランドと共に価値を創造する「ステークホルダー」として巻き込むアプローチが求められます。
その際、サプライチェーンや環境負荷に関する情報を徹底的に開示し、「透明性」を確保することが信頼関係の基盤となります。

提言3:世代を超えた共通価値としての「サーキュラーエコノミー」

ミレニアル世代の「合理性」とZ世代の「倫理観」は、一見すると異なる動機に見えます。
しかし、「資源を無駄にせず、価値を最大化する」というサーキュラーエコノミーの理念は、両者の価値観を繋ぐ共通項となり得ます。
企業は、製品の企画・設計段階からリペア、リユース、リサイクルを前提とした「循環型デザイン」を取り入れることで、両世代から支持される持続可能なブランドを構築できると考えられます。

まとめ:世代間の価値観の融合が拓くサーキュラーファッションの未来

本稿では、ミレニアル世代とZ世代の古着購入動機とサステナビリティ意識の違いについて、多角的に分析してきました。
ミレニアル世代が「賢い消費」の一環としてリユース市場を活用する一方、Z世代は「自己表現」と「倫理観」の表明として古着を積極的に選択しています。

この二つの大きな消費者層の動向は、ファッション業界がリニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへと移行する上で、極めて重要な駆動力となります。
企業には、世代ごとの異なる価値観を深く理解し、それぞれの動機に響く製品、サービス、そしてコミュニケーションを設計することが求められています。

世代間の価値観の違いを乗り越え、その根底にある「良いものを大切に、長く使いたい」「未来の地球環境に責任を持ちたい」という共通の願いを汲み取ること。
それこそが、真に持続可能なサーキュラーファッションの未来を拓く鍵となるでしょう。