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リユース業界の次なるフロンティア「リペアテック」とは?欧州の最新スタートアップ事例

サステナブルファッション研究者の田中美穂です。私は長年、ファッション業界が環境に与える影響を研究し、より持続可能な未来を築くための方法を模索してきました。近年、リユース(再利用)市場の拡大は、大量生産・大量消費モデルに対する一つの答えとして大きな注目を集めています。しかし、その先を見据えたとき、私たちは「リペア(修理)」という、古くて新しい価値観に再び光を当てる必要があるのかもしれません。

本記事では、その「リペア」とテクノロジーが融合した新たな潮流、「リペアテック(Repair Tech)」に焦点を当てます。この言葉を初めて耳にする方も多いかもしれません。リペアテックは、単に古いものを修理するだけでなく、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を実現するための鍵として、特に欧州で急速に存在感を増しています。

この記事を通じて、リペアテックがなぜ今、重要なのか、そして欧州の先進的なスタートアップがどのように未来を切り拓いているのかを、最新のデータと共に専門家の視点から詳しく解説していきます。ファッションの未来を考える上で、避けては通れないこの新しい動きを、皆さんと一緒に探っていきたいと思います。

一目でわかる!この記事の要約図解

なぜ今「リペア(修理)」が重要なのか?ファッション業界の構造的課題

長らく私たちの生活を彩ってきたファッション業界は、今、そのビジネスモデルの根幹を揺るがすほどの大きな課題に直面しています。それは、地球環境への深刻な負荷という、無視できない現実です。

深刻化する環境負荷:データで見るファッションの現実

近年の「ファストファッション」や「ウルトラファストファッション」の台頭は、私たちに手頃な価格で最新のトレンドを享受する機会を与えてくれましたが、その裏側で環境への負荷は増大し続けています。非営利団体Apparel Impact Instituteが2025年7月に発表したレポートによると、アパレル業界全体の温室効果ガス排出量は、2023年に前年比で7.5%も増加したことが明らかになりました。これは、2019年以降で初めての増加であり、業界が掲げる「2030年までに排出量を半減する」という目標から、むしろ遠ざかっているという厳しい現実を突きつけています。

この排出量増加の主な要因として、レポートは過剰な生産量の増加と、石油を原料とするポリエステルなどの化石燃料由来素材への依存を挙げています。現在、世界の繊維生産量のうち、実に57%がバージンポリエステルで占められているのです。

より大きな視点で見ると、国連環境計画(UNEP)は、ファッション業界が世界の年間炭素排出量の約10%を占めていると推定しています。これは、全ての国際航空便と海上輸送を合わせた排出量を上回る規模であり、いかにこの業界の環境負荷が大きいかを示しています。

消費者の意識変化と「所有」から「利用」へのシフト

しかし、希望の光もあります。特にZ世代やミレニアル世代といった若い消費者を中心に、製品に対する価値観が大きく変化し始めているのです。彼らは、次々と新しいものを手に入れる「所有」の喜びよりも、一つの製品を長く大切に使い続ける「利用」のプロセスに価値を見出す傾向が強まっています。

この意識変化を裏付けるのが、英国のNPOであるWRAPが2025年2月に発表した調査結果です。この調査では、中古品を購入したり、手持ちの衣類を修理したりすることが、新しい製品の購入をどの程度抑制するか(ディスプレイスメント率)を数値化しています。その結果、5回の修理を行うごとに、4つの新しい製品の購入が抑制される(ディスプレイスメント率82.2%)ことが示されました。これは、修理という行為が、単なる感傷的な選択ではなく、過剰消費を抑制する上で極めて効果的な手段であることを科学的に証明したと言えるでしょう。

このような消費者の価値観の変化と、企業の持続可能性への取り組みが交差する中で、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という概念が、単なる環境保護のスローガンではなく、経済的な合理性を持つ新しいビジネスモデルとして、今、大きな注目を集めているのです。

リユース業界の次なるフロンティア「リペアテック」とは?

こうした背景の中から、リユース業界、ひいてはファッション業界全体の次なるフロンティアとして登場したのが「リペアテック」です。

リペアテックの定義とビジネスモデル

私は、リペアテック「テクノロジーを活用し、衣類などの修理プロセスを効率化・高度化・スケーラブルにすることで、新たな経済価値と環境価値を創出するビジネス領域」と定義しています。これは、従来型の地域に根差した小規模な修理店を代替するものではなく、むしろテクノロジーの力でその価値を再発見し、現代のライフスタイルに適合した形で消費者に届ける試みと言えるでしょう。

現在、欧州を中心に展開されているリペアテックのビジネスモデルは、大きく以下の3つに分類できます。

ビジネスモデル分類概要特徴主なターゲット
BtoCプラットフォーム型消費者がオンラインやアプリを通じて、手軽に衣類の修理や仕立て直しを依頼できるサービス。利便性の高さ、価格の透明性、多様な修理オプション。一般消費者
BtoBソリューション型アパレルブランドのECサイトや実店舗のサービスに、修理オプションをシステムとして組み込む。ブランドの顧客体験向上、製品寿命の延長によるブランド価値向上。アパレルブランド、小売業者
修理プロセスのDX型AIによる画像診断・見積もり自動化や、修理事業者向けの業務管理SaaSなどを提供し、修理プロセス全体の効率を改善する。修理業務の標準化、効率化、データに基づいた品質管理。修理事業者、ブランド

これらのモデルは相互に連携し、修理を「面倒で古いもの」から「スマートでクールな選択肢」へと変えようとしています。

欧州で加速する法整備:「修理する権利」という追い風

リペアテック市場の成長を語る上で欠かせないのが、欧州連合(EU)における法整備の動きです。特に画期的と言えるのが、2026年7月31日からEU全域で施行される「Right to Repair(修理する権利)」指令です。

この指令は、消費者の権利を大幅に強化するもので、製造業者に対して以下のような義務を課します。

  • 修理義務
    スマートフォンや白物家電など、特定の製品カテゴリーにおいて、メーカーは保証期間が過ぎた後でも、合理的で費用対効果の高い修理サービスを提供しなければなりません。
  • 情報提供義務
    メーカーは、修理に必要なスペアパーツや修理マニュアルなどを、独立した修理業者や消費者に公正な価格で提供する必要があります。

この「修理する権利」は、製品を「使い捨て」から「長く使う」ものへと転換させるための強力な法的枠組みであり、リペアテック・スタートアップにとっては、自社のサービスを拡大するためのまたとない追い風となります。メーカーが修理サービスを提供しやすくなる環境が整うことで、BtoBソリューション型のビジネスはさらに拡大し、修理市場全体が活性化することが予想されます。この動きは、欧州の循環型経済への移行を決定づける重要な一歩と言えるでしょう。詳しくは、欧州委員会の公式サイトや、法律事務所Fieldfisherによる解説記事が参考になります。

【欧州事例】リペアテック・スタートアップの最前線

それでは、実際に欧州でどのようなリペアテック企業が誕生し、市場を牽引しているのか、具体的な事例を見ていきましょう。

Sojo(イギリス・フランス):ECと連携し、利便性を追求するBtoBソリューション

2021年にロンドンで創業したSojoは、まさにリペアテックの潮流を象徴するスタートアップです。当初は自転車便を活用して地域住民から修理品を回収・配送するというユニークなBtoCサービスで注目を集めましたが、瞬く間にそのビジネスモデルを進化させました。

現在、Sojoの主力事業は、ファッションブランドのECサイトに修理・お直しサービスをAPI連携で組み込むBtoBソリューションです。これにより、消費者は商品を購入する際に、同時に裾上げやウエスト調整などをシームレスに注文できるようになります。これは、購入体験を向上させると同時に、サイズが合わないことによる返品を減らす効果も期待できます。デンマークの人気ブランドGanniなどが既にこのサービスを導入しており、2025年11月にはパリの大型商業施設にも物理的な修理ハブを開設するなど、オンラインとオフラインを融合させた展開を加速させています。

United Repair Centre(オランダ):社会的企業としてスケーラビリティに挑む

アムステルダムに拠点を置くUnited Repair Centre(URC)は、ビジネスの規模(スケーラビリティ)と社会的インパクトの両立を目指す、ユニークなポジショニングを築いています。URCは、アウトドアブランドのPatagoniaや、ヨガウェアで人気のLululemonといった、サステナビリティを経営の中核に据える大手ブランドの公式修理パートナーとして、高品質な修理サービスを提供しています。

彼らの特筆すべき点は、単なる修理工場ではないことです。URCは、故郷を追われた難民や地域への移住者に対し、専門的な技術トレーニングを施し、公正な賃金で雇用機会を創出する社会的企業としての一面を持っています。ファッション業界の課題解決を通じて、よりインクルーシブな社会の実現を目指すその姿勢は、多くのブランドから共感を得ており、「修理」という行為に新たな価値を付与しています。

FixFirst(ドイツ):修理エコシステム全体を支えるSaaSプラットフォーム

ベルリンを拠点とするFixFirstは、個別の修理サービスを提供するのではなく、修理に関わるすべてのプレイヤーを支える「OS(オペレーティングシステム)」を構築しようとしています。彼らが開発するのは、AIを活用した修理業務支援SaaS(Software as a Service)です。

例えば、消費者がスマートフォンで破損箇所の写真を撮って送ると、AIが損傷の度合いを分析し、修理費用の見積もりを自動で算出します。また、修理事業者向けには、顧客管理、部品発注、業務進捗管理などを一元的に行えるソフトウェアを提供し、煩雑なバックオフィス業務を効率化します。このように、修理プロセス全体をデジタル化・標準化することで、小規模な事業者でも効率的に運営できる基盤を整え、修理エコシステム全体の底上げを図ることを目指しています。

比較表:欧州リペアテック注目企業

これまで紹介した企業を含め、欧州で注目されるリペアテック関連企業の特色を以下の表にまとめました。

企業名拠点創業年ビジネスモデル特徴
Sojoイギリス2021年BtoBソリューション型ECサイトとのAPI連携に強み。利便性を追求し、購入体験と一体化した修理サービスを提供。
United Repair Centreオランダ2022年BtoBソリューション型大手ブランドの公式修理パートナー。難民雇用など社会的企業としての一面も持つ。
FixFirstドイツ2019年修理プロセスのDX型AIを活用した見積もり自動化など、修理業務全体を効率化するSaaSプラットフォームを提供。
The Seamイギリス2019年BtoCプラットフォーム型地域に根差した仕立て屋や修理職人と消費者を繋ぐマーケットプレイス。職人の技術を可視化。
MUD Jeansオランダ2013年製品のサービス化(PaaS)ジーンズを「販売」するのではなく「リース」するモデル。無料の修理サービスが付帯。

リペアテックが拓く未来と日本市場への示唆

欧州での盛り上がりは、遠い国の話ではありません。リペアテックが示す未来は、日本のファッション業界、そして私たちの消費行動にも大きな示唆を与えてくれます。

データで見る修理のインパクト:CO2削減効果と経済性

修理が環境に良いことは直感的に理解できますが、その効果はデータによってより明確になります。前述のWRAPの調査によれば、新品を購入する代わりにコットンTシャツ1枚を修理すると、7.5kg以上のCO2排出量(アイロンを25時間かけ続けることに相当)を削減できると試算されています。これが防水ジャケットになれば、その効果は45kg以上にも達します。

さらに重要なのは、修理がビジネスとして成立し得るという点です。同調査が明らかにした82.2%という高いディスプレイスメント率は、修理サービスが普及すれば、その分だけ確実に新規製品の生産を抑制できることを意味します。これは、企業の売上を維持しながら環境負荷を低減するという、サーキュラーエコノミーの理想的な姿を実現する可能性を示唆しています。

日本市場における課題と可能性

翻って日本市場を見ると、私たちには古くから「もったいない」という精神が根付いており、優れた技術を持つ職人も数多く存在します。これは、リペアテックが花開くための豊かな土壌と言えるでしょう。

しかし、一方で課題も山積しています。修理料金がいくらかかるか分からず不安、どこに依頼すれば良いか分からない、そもそも修理に出すのが面倒、といった消費者のハードル。そして、職人の高齢化や後継者不足といった、供給側の構造的な問題です。これらの課題が、修理という選択肢を私たちの日常から遠ざけてしまっているのではないでしょうか。

ここにこそ、リペアテックの介在価値があります。テクノロジーを活用して価格の透明性を確保し、オンラインで手軽に依頼できる仕組みを整える。AIが見積もりをサポートし、職人の経験と勘をデータとして次世代に継承する。欧州のスタートアップが示したように、リペアテックは、日本が抱えるこれらの課題を解決し、眠っている「修理」のポテンシャルを最大限に引き出す起爆剤となり得るのです。

まとめ

本記事では、ファッション業界が直面する環境問題という大きな課題を背景に、その解決策として注目される「リペアテック」の可能性について、欧州の最新事例を交えながら解説してきました。

  • ファッション業界の課題
    過剰生産と環境負荷の増大は限界に達しており、ビジネスモデルの転換が急務であること。
  • リペアテックの登場
    テクノロジーを活用して修理を効率化・高度化し、新たな価値を創出する動きが加速していること。
  • 欧州の先進事例
    Sojo、United Repair Centre、FixFirstなど、多様なビジネスモデルが生まれ、EUの「修理する権利」がその成長を後押ししていること。
  • 日本への示唆
    日本の「もったいない」文化と職人技術を、テクノロジーの力で再活性化できる大きな可能性があること。

リペアテックは、単なる修理サービスのデジタル化ではありません。それは、製品の企画・生産から販売、そして使用後の回収・再生に至るまで、製品のライフサイクル全体を最適化し、消費者、企業、そして環境にとっての「三方良し」を実現する、サーキュラーエコノミーの中核的なドライバーです。

私たちが一人の消費者として、クローゼットに眠っている一着の服を「捨てる」のではなく「修理する」という選択をすること。その小さな行動の積み重ねが、ファッション業界の持続可能な未来を創る、確かな一歩となるのです。この記事が、皆さんの次のアクションのきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。