調査レポート

エシカル消費に関する意識調査2026:「買わない」から「賢く選ぶ」へ変わる日本の消費者像

「エシカル消費って興味はあるけど、結局どの商品を選べばいいか分からない」。こうした声を、私はコンサルティングの現場でもSNSのコメント欄でも、本当に多く耳にします。

サステナブルファッション研究者の田中美穂です。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、ロンドン芸術大学でファッション・ビジネスを学び、現在は株式会社サステナブル・ファッション・ラボの代表として、大手アパレル企業のサステナビリティ戦略に携わっています。環境省の「サステナブルファッション推進委員会」の委員も務めており、日本の消費者行動の変化を長年にわたって追いかけてきました。

2025年から2026年にかけて公表されたエシカル消費に関する各種調査データを丁寧に読み解いていくと、ある興味深い変化が浮かび上がってきます。それは、「環境のために買わない」という従来の消費抑制型のアプローチから、「環境や社会に配慮された商品を積極的に選ぶ」という能動的な消費行動への転換です。

この記事では、消費者庁やデロイト、PwCなどが実施した最新の意識調査データをもとに、日本のエシカル消費の現在地を多角的に分析します。世代別の意識の違い、市場規模の変化、そして政策的な後押しまで、データと事実に基づいた客観的な視点でお伝えしていきます。

エシカル消費意識調査2026
認知度27%・リユース市場3兆円突破。数字が示す日本のエシカル消費は、確実に「実践の時代」へ移行しています。

エシカル消費の認知度は今どこにあるのか? 最新調査が示す日本の現在地

まず押さえておきたいのが、日本におけるエシカル消費の認知度です。消費者庁のエシカル消費に関する意識調査によると、2025年11月に公表された令和7年度消費生活意識調査(第2回)では、「エシカル消費(倫理的消費)」を知っている人の割合は27.1%でした。前年の27.4%とほぼ同水準であり、認知度の伸びが一旦頭打ちになっている状況が見えてきます。

この数字だけを見ると「まだまだ浸透していない」という印象を受けるかもしれません。しかし、時系列で見ると景色は少し変わります。

調査年度エシカル消費の認知度
2019年度12.2%
2022年度20.8%
2023年度29.3%
2024年度27.4%
2025年度27.1%

2019年にはわずか12.2%だった認知度が、約6年で2倍以上に拡大しています。特に2022年から2023年にかけての伸びが顕著で、SDGsの社会的浸透と軌を一にしていることが読み取れます。直近2年間は横ばいですが、これは「急成長フェーズから安定期への移行」と捉えるのが妥当でしょう。

「知っている」と「実践している」の間にあるギャップ

認知度以上に注目すべきは、「知っている」と「実際に行動している」の間にある大きな溝です。

環境省の脱炭素ポータルが紹介するグリーン志向の消費行動に関するデータによると、消費者庁の2024年10月調査では、気候変動や地球環境問題に関心を持つ人は約7割にのぼります。エシカル消費につながる商品・サービスの購入を希望する人も約5割です。しかし、実際にエシカル消費行動を実践しているのは約3人に1人にとどまっています。

では、なぜ関心があるのに行動に移せないのでしょうか。消費者庁の調査が示した答えは意外なものでした。エシカル消費を実践していない人が挙げた理由のトップは「どの商品を選べばよいか分からない」(23%)であり、「経済的な制約」(20%)を上回っていたのです。

つまり、多くの消費者は「高いから買えない」のではなく、「何を買えば良いのか分からない」のです。この発見は、エシカル消費の普及に向けた打ち手を考えるうえで非常に重要な示唆を含んでいます。

世代別に見るエシカル消費のリアルな姿

エシカル消費に対する意識と行動は、世代によって大きく異なります。ここでは、最新の調査データをもとに、世代ごとの特徴を整理していきます。

Z世代 ── 情報感度は高いが行動には慎重

デロイト トーマツ グループが2025年に発表した「国内Z世代意識・購買行動調査」は、Z世代のエシカル消費に関して興味深い実態を明らかにしています。

「サステナビリティに準拠した商品を選んでいる」と回答したZ世代の割合は、日用品で約50%、化粧品で約50%、食料品で約40%に達しています。これはベビーブーマー世代の女性と比較しても10ポイント以上高い数値です。

一方で、「サステナブルな取り組みを推進している企業を応援したい」と考えながらも、実際の購買に至っていない層が40%を超えるという結果も示されています。意識は高いけれど、財布を開くまでには至らない。この「意識と行動のギャップ」がZ世代の特徴です。

消費者庁の調査でも、10歳代のエシカル消費認知度が全年代で最も高いことが報告されています。その情報源として「学校での学習」を挙げた10代は45.6%にのぼり、学校教育を通じたSDGs・エシカル消費の浸透が着実に進んでいることが分かります。

Z世代の消費行動を分析すると、彼らが求めているのは「我慢してエシカルな商品を選ぶ」ことではなく、「おしゃれで、品質が良くて、しかもエシカルでもある」という複数の価値が共存する商品です。この点は、今後のエシカル市場の方向性を考えるうえで見逃せないポイントでしょう。

ミレニアル世代・シニア世代 ── それぞれの実践のかたち

ミレニアル世代は、購入前にしっかりと情報を調べたうえで判断する傾向があります。PwC Japanの調査によると、日本の消費者の40%超がサステナブル商品に対して平均価格よりも最大10%高い価格を支払う意向を示しています。ただし、グローバル平均と比較すると約10ポイント低く、日本の消費者の価格感度の高さがうかがえます。

興味深いのはシニア世代の動向です。消費者庁の調査では、70歳代以上のエシカル消費実践度が継続的に高い水準を保っています。「もったいない」「地産地消」「旬のものを食べる」といった日本に古くからある生活習慣が、実はエシカル消費そのものだったという側面があるのです。

世代意識の特徴行動の特徴
Z世代(10代後半~20代前半)認知度が全年代で最高。学校教育の影響大興味はあるが購買に至らない層が40%超
ミレニアル世代(20代後半~30代)品質とサステナビリティの両立を重視情報をしっかり調べたうえで購入判断
シニア世代(60代以上)日本的な「もったいない」文化と融合エシカル消費の実践率が高い

「買わない」から「賢く選ぶ」へ ── 変わる消費行動の中身

エシカル消費というと、「必要のないものを買わない」「消費を減らす」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、最新のデータを見ると、日本の消費者はむしろ「より良い選択肢を積極的に選ぶ」方向へとシフトしていることが分かります。

フェアトレード市場の堅調な成長が意味すること

その象徴的な例が、フェアトレード市場の拡大です。国際フェアトレード認証機関であるフェアトレード・ジャパンの発表によると、2024年の国際フェアトレード認証製品の国内推定市場規模は215億円に達しました。前年比2.2%の増加であり、2014年の94億円から10年間で2倍以上に成長しています。

注目すべきは、この成長が原材料価格の高騰が続くなかで実現されている点です。カカオ豆やコーヒー豆の国際価格が歴史的な高値を記録するなか、カカオ製品のフェアトレード認証品は前年比169%という大幅な伸びを示しました。紅茶も前年比160%の成長です。値上げラッシュのなかでも、消費者がフェアトレード商品を選び続けているという事実は、「安ければ何でもいい」という消費行動からの確かな変化を物語っています。

もっとも、国民一人当たりの年間フェアトレード認証品購入額は174円と、スイスの約1万円、英国の約5,000円と比較するとまだ大きな開きがあります。伸びしろは十分にあると言えるでしょう。

ファッションリユース市場3兆円突破の衝撃

もうひとつ、私がサステナブルファッション研究者として強い関心を持っているのが、ファッションリユース市場の急拡大です。矢野経済研究所の調査によると、国内リユース市場全体は2023年に約3兆1,227億円規模に達し、初めて3兆円の大台を突破しました。なかでもファッションリユース市場は1兆1,500億円規模と推計され、2024年には1兆2,800億円に拡大する見通しです。

この市場拡大を牽引しているのは、フリマアプリの普及やセカンドストリートなどの大手リユースショップの出店拡大だけではありません。見逃せないのは、ユニクロをはじめとする一次流通(新品販売)企業がリユース事業に参入する動きが加速していることです。新品を売るブランド自身が古着の価値を認め、循環の仕組みを構築し始めている。これは、ファッション業界全体がサーキュラーエコノミーへと舵を切っていることの証左です。

かつて「古着」は節約やヴィンテージ好きのためのものでした。しかし今、リユースファッションは「サステナブルでおしゃれな選択肢」として、幅広い世代に受け入れられつつあります。「買わない」のではなく、「賢く、循環するかたちで選ぶ」。この変化こそが、日本のエシカル消費の新しい姿なのです。

企業と政策が後押しするエシカル消費の新しい波

消費者の意識変化を加速させているのは、消費者自身の力だけではありません。政策面と企業側の取り組みも、大きな追い風となっています。

サーキュラーエコノミー政策の加速

2024年12月27日、日本政府は「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行加速化パッケージ」を閣議決定しました。経済産業省のサーキュラーエコノミー推進ページに詳しい情報が掲載されていますが、この政策パッケージには、製品の循環情報を可視化するための「サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォーム」の構築や、資源有効利用促進法の改正など、消費者が「賢く選ぶ」ための基盤整備が含まれています。

世界に目を向けると、Statistaの調査ではサーキュラーエコノミーの市場規模は2022年の3,339億ドルから2026年には7,127億ドルへと、年率約20%で急成長すると予測されています。なかでもReuse(再利用)分野は2026年に3,341億ドル規模に達し、アパレルがその最大セグメント(995億ドル)を占める見通しです。

2025年に開催された大阪・関西万博でもサーキュラーエコノミーが大きくクローズアップされ、市民レベルでの認知拡大に寄与しました。循環型経済は、もはや専門家だけの議論ではなく、日常の消費生活に直結するテーマとなっています。

消費者が「賢く選ぶ」ための仕組みづくり

消費者庁は2024年11月から2025年2月にかけて、グリーン志向の消費行動に関するワーキングチームでの議論を重ね、2025年2月にその取りまとめを公表しました。ここでは、消費者が日常生活のなかで実践可能な37項目のグリーン志向消費行動チェックリストが策定されています。

さらに、2025年6月に閣議決定された令和7年版消費者白書では、「グリーン志向の消費行動」がメインテーマとして取り上げられました。国の消費者政策の中核に、環境配慮型消費が位置づけられたことの意味は大きいです。

先ほど触れた「どの商品を選べばよいか分からない」という消費者の声に応えるためには、企業側の情報開示がカギを握ります。デロイトの調査では、Z世代女性がサステナブル企業を応援しない理由として「情報開示されていない」「理解できない」を挙げています。認証ラベルの統一化、製品のライフサイクル情報の可視化、そして分かりやすいコミュニケーションが、今後ますます重要になるでしょう。

サステナブルファッション研究者として見る日本のエシカル消費の未来

数字の裏にある構造的な変化

エシカル消費の認知度27.1%、実践率26.1%。この数字だけを見ると「まだまだこれから」という印象を持たれるかもしれません。しかし、研究者の視点から見ると、数字の裏側にある「質的な変化」にこそ注目すべきだと考えています。

かつてエシカル消費は、環境問題に高い関心を持つ一部の「意識の高い人」のものでした。しかし今、消費者庁の調査で実践理由のトップに挙がっているのは「同じようなものを購入するなら環境や社会に貢献できるものを選びたい」(53.3%)であり、2番目は「節約につながる」(50.4%)です。エシカル消費が「特別な選択」から「合理的な判断」へと変わりつつあることが、このデータから読み取れます。

フェアトレード市場の成長、リユース市場の3兆円突破、Z世代におけるサステナブル商品選択率の高さ。これらはすべて、日本の消費者が「買わない」から「賢く選ぶ」へとシフトしていることの表れです。

今日からできる「賢い選び方」のヒント

最後に、エシカル消費を「始めたい」「もっと実践したい」と感じている方に向けて、日常のなかで取り入れやすいアクションをご紹介します。

選び方の視点具体的なアクション手軽さ
認証ラベルを確認するフェアトレード認証やFSC認証のマークがついた商品を選ぶすぐできる
リユースを選択肢に入れるフリマアプリやリユースショップで衣類・雑貨を探すすぐできる
地産地消を意識する地元の農産物や旬の食材を優先的に購入するすぐできる
企業の取り組みを調べる購入前にブランドのサステナビリティ情報をチェックする少し手間
長く使えるものを選ぶ安さだけでなく、耐久性や修理のしやすさも考慮する意識を変える

大切なのは、「完璧なエシカル消費」を目指すことではありません。日常の買い物のなかで、「少しだけ視点を広げてみる」こと。それが、持続可能な社会への第一歩になります。

まとめ

2025年から2026年にかけての各種調査データが示しているのは、日本のエシカル消費が「認知の拡大」から「実践の深化」へと移行しつつあるという事実です。

認知度こそ27%台で横ばいですが、フェアトレード市場は10年で2倍の215億円に成長し、リユース市場は3兆円を突破しました。Z世代の50%がサステナブル商品を選択し、政府はサーキュラーエコノミーへの移行を加速化しています。消費者の実践動機が「節約」と「社会貢献」の両方にまたがっていることも、エシカル消費が一過性のトレンドではなく構造的な変化であることを示唆しています。

「買わない」から「賢く選ぶ」へ。この変化は、日本の消費社会が成熟に向かっていることの証です。私自身、サーキュラーファッションの研究を通じて、この変化を加速させるお手伝いをしていきたいと思っています。皆さんも、今日のお買い物から「ひとつだけ、視点を変えてみる」ことを試してみませんか。