市場分析・統計

メンズ古着市場の急成長を読み解く:なぜ男性のリユース利用率が過去5年で倍増したのか

「古着=女性のもの」。ほんの数年前まで、ファッションリユース市場にはそうした固定観念がありました。フリマアプリの利用者は女性が大半を占め、古着屋の店頭でも来店客の多くは女性。メンズ古着はどちらかといえば、一部のヴィンテージ愛好家だけの世界でした。

ところが、ここ数年で状況は一変しています。メルカリの男女比は「ほぼ半々」に変わり、ヴィンテージ古着イベントには20代の男性が友人同士で押し寄せ、セカンドストリートでは「メンズの夏物在庫が足りない」という声が上がるほどです。

サステナブルファッション研究者として国内外のリユース市場を10年以上追いかけてきた私、田中美穂が、この記事ではデータと事例の両面からメンズ古着市場の構造的な変化を読み解いていきます。「なぜ男性がリユースに向かっているのか」「この流れは一過性のブームなのか、それとも定着するのか」。そうした疑問に、できるだけ具体的な数字を示しながらお答えします。

数字で見るメンズ古着市場の現在地

3兆円を超えたリユース市場、その中心にファッションがある

まず全体像を押さえておきます。リユース経済新聞(リサイクル通信)の市場規模推計によると、国内リユース市場は2024年に3兆2,628億円に達しました。2009年の1兆1,300億円から15年連続で拡大を続けており、成長が止まる気配はありません。

リユース市場規模前年比
2020年2兆4,169億円
2021年2兆6,988億円+11.7%
2022年2兆8,976億円+7.4%
2023年3兆1,227億円+7.8%
2024年3兆2,628億円+4.5%

この成長を最も力強く牽引しているのがファッション領域です。2024年には衣料・服飾品(6,392億円)とブランド品(4,230億円)を合わせたファッションカテゴリの合計が初めて1兆円の大台を突破しました。矢野経済研究所の調査でも、ファッションリユース市場は2023年に1兆1,500億円(前年比113.9%)と2桁成長を記録しています。

リユース市場全体の伸びが年4〜8%程度なのに対し、ファッション領域は10%を超えるペースで拡大している。この差が示すのは、ファッションこそがリユース経済のエンジンだという事実です。

男性の参入加速を示す複数のシグナル

では、このファッションリユースの成長において、男性はどのような存在感を見せているのか。直接的に「男性利用者数が○倍になった」と示す単一の統計は現時点では存在しませんが、複数のデータを重ね合わせると、構造的な変化が浮かび上がります。

中小企業基盤整備機構J-Net21の「古着店」市場調査(2025年版)によると、古着店の現在の利用率は25.8%。4人に1人が古着店を利用しています。注目すべきは男女差で、男性は「週1〜2回」「月2〜3回」といった高頻度利用者の割合が女性を上回り、1回あたり12,000円以上を支出する層も男性に偏っています。

さらに象徴的なのが、フリマアプリの男女比の変化です。かつて「女性のサービス」と見られていたメルカリは、2024年2月時点で月間ユーザー3,930万人のうち、男女比がほぼ半々にまで変化しました。CtoCプラットフォームにおける男性の存在感は、わずか数年で劇的に高まっています。

ヴィンテージ古着イベント「VCM VINTAGE MARKET」の来場者構成も、この傾向を裏付けます。来場者の男女比はおよそ7対3で男性が圧倒的多数。20代の男性グループが複数人で訪れ、高額なヴィンテージデニムやバンドTシャツを購入する光景が当たり前になっています。

こうしたデータを総合すると、2020年前後を境に男性のリユース参加率が急速に高まり、利用頻度・支出額ともに市場の重要なドライバーになっていることは明らかです。

なぜ男性のリユース利用は急拡大したのか

男性がリユースに向かう背景には、複数の構造的要因が絡み合っています。ひとつの理由で説明できるほど単純ではなく、社会環境の変化、テクノロジーの普及、そして世代間の価値観シフトが同時に作用しています。

フリマアプリが「売買のハードル」を劇的に下げた

最大の転換点は、フリマアプリの普及です。2024年時点のフリマ・オークション市場は、メルカリ(月間3,930万人)、Yahoo!オークション(2,210万人)、Yahoo!フリマ(1,660万人)と、合計で数千万人規模のユーザーを抱えています。

男性にとって重要だったのは、「売る側」のハードルが下がったことです。古着屋に持ち込むのは面倒でも、スマホで写真を撮って出品するだけなら試してみようと思える。コメ兵ホールディングスの調査では、リユースに対する心理的ハードルがなくなった人の約半数が「2020年以降」にその変化を経験したと回答しています。フリマアプリの日常化が、男性にとっての「最初の一歩」になったのです。

買う側にとっても変化は大きい。サイズ感やコンディションに対する不安はレビュー機能やAI採寸で軽減され、「失敗しても再出品すればいい」という気軽さが心理的な安全網になっています。

もうひとつ注目すべきは、プラットフォームごとの男女比の違いです。メルカリがほぼ半々なのに対し、Yahoo!オークションは男性が約60%を占めています。ガジェットや工具が強いYahoo!オークションと、ファッション・コスメが強いメルカリ。その両方で男性ユーザーの厚みが増しているということは、ファッション領域に限らず「中古品を売買する」行為そのものが男性の日常に組み込まれつつある証拠です。

物価上昇が後押しした「合理的選択」

2022年以降続く物価上昇も、リユース市場への追い風として無視できません。国内CPIは前年比2.5〜3.0%の上昇が続き、とりわけ衣料品の新品価格は原材料費・物流コストの高騰でじわじわと上がっています。

コメ兵の消費者調査(2024年、全国20〜69歳の男女500名対象)では、物価高をきっかけにリユース品を利用するようになった人が全体の31.2%に上りました。「節約のため」と「品質の良いものを安く手に入れたい」という2つの動機が、特に30代〜40代の男性層でリユースへの参入を後押ししています。

ここで見逃せないのは、「安いから仕方なく古着」ではなく、「賢い消費としてリユースを選ぶ」という意識の変化です。新品に3万円出すか、状態の良い中古品を1万円で手に入れるか。その比較を冷静に行える男性消費者が増えたことが、市場拡大の質的な基盤になっています。

ヴィンテージブームとSNSの相乗効果

もうひとつ、見逃せない変化があります。SNSを起点としたヴィンテージ古着ブームの広がりです。

TikTokでは「セカスト巡り」(セカンドストリートの店舗を巡る動画)が120万回再生を超える投稿も珍しくなく、YouTubeでも古着屋巡りチャンネルが急増しています。Instagramでは古着コーディネートの投稿が膨大な数に上り、「古着=ダサい」というかつてのイメージは完全に過去のものとなりました。

ダイヤモンド・オンラインの調査によると、高校生の4人に1人が「古着屋巡りにハマっている」と回答しています。Fashionsnapの取材では、10代〜20代男性がNirvanaやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのバンドTシャツ、アニメコラボTシャツなどを積極的に購入している実態が報告されています。

この現象の本質は、古着が「安い代替品」から「自己表現のツール」へと意味を変えたことにあります。新品では手に入らない一点物を見つけ、それをSNSで共有する。古着が持つ「ストーリー性」や「唯一無二感」は、大量生産品にはない価値として、特に若い男性に強く響いています。

Z世代が変えた「古着の意味」

Z世代(おおむね1990年代後半〜2010年代前半生まれ)の消費行動は、メンズ古着市場の成長を語るうえで避けて通れません。

コメ兵が2025年に実施した調査では、Z世代の約7割が購入時に「リセールバリュー(再販価値)」を意識していると回答。そのうち「常に意識する」と答えた人は約27%で、他の世代を大きく上回りました。品質の保管や定期的な手入れを実践する割合も90%に達しており、「買って、大切に使い、また売る」というサイクルが自然に根づいています。

興味深いのは、Z世代がリユース品を選ぶ理由の構造です。全世代平均では「価格が安いから」が67%で圧倒的1位ですが、Z世代では価格の安さを理由に挙げる割合が全世代平均より約10%低い。代わりに「環境に優しいから」「自分らしさを表現できるから」「他人と被らないから」といった理由が他世代より顕著に高くなっています。

つまり、Z世代の男性にとって古着は「安いから買う」ものではなく、「自分の価値観を反映する消費行動」です。この意識の変化は一過性のトレンドではなく、世代に根ざした構造的なシフトだと私は見ています。

デロイト トーマツの「国内Z世代意識・購買行動調査」(2025年度)でも、10代後半〜20代前半の男性は商品購入時のサステナビリティ意識が高いことが報告されています。彼らは節約志向と「推し消費」を両立させる世代であり、「普段着はリユースで賢く揃え、こだわりのアイテムにはしっかり投資する」というメリハリのある消費パターンが特徴的です。こうした消費スタイルは、まさにリユース市場と新品市場の共存を前提にしたものであり、市場の持続的な成長を裏付ける要素になっています。

主要プレイヤーの動向から読む市場の方向性

メンズ古着市場の拡大は、企業の業績にもはっきりと表れています。ここでは主要企業の動向を見ながら、市場がどの方向に進んでいるのかを読み解きます。

企業古着・中古売上特徴
セカンドストリート(ゲオHD)876.2億円(古着売上業界1位)国内外1,000店舗突破、海外売上4年で約10倍
コメ兵HD1,194.5億円(中古売上業界2位)初の1,000億円超え、ブランドリユースに強み
トレジャー・ファクトリー162.8億円(古着売上業界3位)4期連続20%超成長、EC化率14.5%
メルカリ月間3,930万ユーザー男女比ほぼ半々へ変化、CtoC最大手

セカンドストリート:1,000店舗突破と海外展開の加速

メンズ古着市場の成長を最も体現しているのがセカンドストリートです。親会社ゲオホールディングスのリユース事業全体の売上は約2,739億円に達し、グループ売上の50%以上を占めるまでに成長。2024年4月には国内外合わせて1,000店舗を突破しました。

特筆すべきは、古着(洋服・服飾雑貨)の売上が前年の598.9億円から876.2億円へと約46%も跳ね上がった点です。業界全体の古着市場でもシェア1割以上を確保しています。「メンズの夏物在庫が足りない」という現場の声は、男性需要の急増を如実に示すエピソードです。

海外展開も積極的で、アメリカ、台湾、タイ、マレーシアでの海外売上は4年で約10倍の約140億円に拡大。同社はリユース事業で1兆円企業を目指すと公言しており、メンズ古着はその成長戦略の重要な柱になっています。

メルカリとコメ兵:異なる戦略で男性市場を開拓

CtoC最大手のメルカリでは、ファッションカテゴリーの取引経験率が利用者全体の62.6%に達しています。「不要になったら売る、欲しいものは中古で探す」という行動様式が、男女問わず日常に定着しました。

一方、コメ兵ホールディングスは2024年に中古売上で初の1,000億円超えを達成し、ブックオフグループを抜いて業界2位に浮上。ブランドリユースを軸にした高単価戦略が功を奏し、特に男性の高級時計やブランドバッグの売買が活況です。Z世代向けのリセールバリュー意識調査を自ら実施・公開するなど、若年男性層の取り込みにも注力しています。

トレジャー・ファクトリーは4期連続で20%超の成長を維持し、2025年2月期の売上は約422億円(前期比22.5%増)で過去最高を更新。EC化率14.5%とオンライン展開にも力を入れており、リアル店舗とオンラインの融合で独自のポジションを築いています。

グローバル比較で浮かび上がる日本市場の特徴

最後に、海外市場との比較から日本のメンズ古着市場の独自性を整理しておきます。

米国のThredUpが毎年発行するリセールレポート(2026年版)によると、グローバルの中古衣料品市場は2025年に2,570億ドル(約39兆円)、2030年には3,930億ドル(約60兆円)に達する見込みです。ファッション市場全体の3倍のスピードで拡大しており、世界的な潮流として中古衣料品の存在感が高まっています。

欧州市場では、セカンドハンド衣料品の購買者に占める男性比率は約45%。日本でも同様の傾向が見られ、「リユースは女性のもの」という構図はグローバルに崩れつつあります。

こうした中で、日本市場にはいくつかの独自の特徴があります。

  • 店舗販売(BtoC)の比率が依然として高い(リユース市場全体の約35%)
  • セカンドストリートやトレファクのようなチェーン店が全国に展開し、実店舗での購入体験が充実している
  • インバウンド観光客による古着購入が独自の成長ドライバーになっている
  • ヴィンテージ古着の品質と品揃えにおいて、日本は世界的にも高い評価を受けている

欧米ではThredUpやVestiaire Collectiveのようなオンラインプラットフォームが市場を主導していますが、日本では実店舗を軸としたリユースチェーンが強い。この構造は、「実物を見て、触って選びたい」という男性消費者の購買行動と相性が良く、メンズ古着市場の成長を下支えしている要因のひとつです。

まとめ

メンズ古着市場の急成長は、ひとつの要因では説明できません。フリマアプリの普及による売買ハードルの低下、物価上昇に伴う合理的消費志向の高まり、SNSが加速させたヴィンテージブーム、そしてZ世代に根ざした「リセール前提の消費行動」。これらが同時に重なり合い、男性のリユース市場参入を構造的に後押ししています。

3兆円を超えたリユース市場において、ファッション領域は初めて1兆円の大台を突破しました。セカンドストリートの売上急伸やメルカリの男女比変化が示すように、メンズ古着はもはやニッチな市場ではありません。

世界の中古衣料品市場が2030年に約60兆円規模に達するとの予測がある中、日本のメンズ古着市場もその成長の只中にあります。重要なのは、この変化が単なるブームではなく、消費者の価値観そのものの転換に根ざしているという点です。「安いから買う」から「賢いから選ぶ」へ。その意識のシフトが不可逆的なものである限り、メンズ古着市場の拡大基調は今後も続くでしょう。

ファッション業界に関わるすべての人にとって、リユースはもう「サブ」の選択肢ではなく、ど真ん中の市場です。この流れを正しく理解し、自分なりの関わり方を考えるきっかけになれば幸いです。