サステナビリティ研究

ファストファッションの環境問題を数値で把握する:水質汚染・温室効果ガス・廃棄物の全体像

「安い服を買って、数回着て、捨てる」。この行動パターンが世界中で当たり前になりました。2000年と比べて、世界の衣類生産量は2倍に膨れ上がっています。一方で、1着の服が着られる回数は7〜10回にまで減少。15年前と比べると36%も短くなっています。

ファストファッションの環境問題は、もはや「なんとなく良くないらしい」という曖昧な認識で済む段階ではありません。水質汚染、温室効果ガス、廃棄物。この3つの軸で、国際機関や研究機関による具体的な数値データが蓄積されてきました。問題の深刻さを数字で把握することは、個人としての行動を考えるうえでも、業界の構造的な変化を議論するうえでも不可欠です。

サステナブルファッション研究者・コンサルタントとして活動している田中美穂です。三菱商事でのファッション事業部勤務を経て、現在は大手アパレル企業のサステナビリティ戦略コンサルティングを行いながら、ライフサイクルアセスメント(LCA)の研究に取り組んでいます。欧州やアジアの現場を見てきた経験から、この記事ではファストファッションが環境に与えるインパクトの全体像を、信頼できるデータに基づいて整理します。

ファッション産業の環境負荷はどこまで深刻か

産業全体の規模感を押さえる

まず前提として、ファッション産業の規模を把握しておく必要があります。

市場規模は約2.5兆ドル。世界で6人に1人がこの産業に関わっているとされています。年間の衣類生産量は1,000億着以上。2000年時点と比較して2倍の数字です。

これほどの規模を持つ産業が、高速回転型の「大量生産・大量消費・大量廃棄」モデルで動いている。SHEINは企画から販売まで最短10日、ZARAでも2週間。こうしたリードタイムの短縮が、トレンドサイクルの加速と衣類の「使い捨て化」を後押ししてきました。

問題は、生産量が増えた一方で、消費者が服を着る回数が大幅に減っていること。マッキンゼーの調査によると、2014年の衣類購入量は2000年比で60%増加しましたが、1着あたりの着用期間は半分に縮まっています。「買う量は増え、着る回数は減る」。この非対称な構造が、あらゆる環境問題の起点になっています。

日本も例外ではありません。環境省のサステナブルファッション特設サイトによると、国内の衣類供給量は1990年の約20億着から約35億着へと1.8倍に増加。しかも販売される衣類の98%が輸入品で、製造過程の環境負荷は海外で発生しています。

環境負荷を構成する3つの柱

ファッション産業が地球環境に与える負荷は、大きく3つに分類できます。

  • 温室効果ガスの排出(気候変動への寄与)
  • 水質汚染と水資源の消費(河川・海洋環境への影響)
  • 廃棄物の発生(埋め立て・焼却による土壌・大気への影響)

これらは独立した問題ではなく、サプライチェーン全体で複雑に絡み合っています。原料栽培から繊維加工、染色、縫製、輸送、消費、廃棄まで、あらゆる段階で環境負荷が生じる構造です。以下、それぞれの実態を数値で見ていきます。

温室効果ガス排出量の実態

世界のCO2排出に占めるファッション産業の割合

ファッション産業の温室効果ガス排出量は、計測範囲や定義によって数値にばらつきがあります。

世界資源研究所(WRI)の分析では世界全体の2〜8%。UNFCCCは約10%と発表しています。この差は、原材料の栽培・採掘から最終消費者の手元に届くまでのどの範囲を含めるかによるもの。ただし、どの数値を採用しても「国際航空と海運を合わせた排出量を上回る」という点は共通しています。

Apparel Impact Instituteが2024年に公表した報告書では、2023年のアパレル部門の排出量は9億4,400万トンに達しました。前年比7.5%の増加で、2019年の追跡開始以来、初めての増加です。

指標数値出典
世界の排出量に占める割合2〜8%(定義により変動)WRI
2023年の排出量9億4,400万トンApparel Impact Institute
前年比増加率7.5%(2019年以降初の増加)Apparel Impact Institute
2030年の予測増加率50%以上UNFCCC

排出量が増え続ける構造的な理由

なぜ排出量は減るどころか増加しているのか。背景には、合成繊維への依存構造があります。

現在、世界の繊維生産の57%をバージン(未使用)ポリエステルが占めています。ポリエステルは石油由来の素材で、製造段階でのエネルギー消費が大きい。にもかかわらず、リサイクルポリエステルの普及は進んでいません。

加えて、生産量そのものが増え続けていること。世界の繊維生産量は2000年の5,800万トンから2022年には1億1,600万トンへと倍増(Textile Exchange, 2023)。このまま推移すれば2030年には1億4,700万トンに達するとされています。

UNFCCCの予測では、現在のトレンドが続いた場合、2030年までに繊維製造の排出量は50%以上増加。Ellen MacArthur Foundationの試算では、2050年にはファッション産業が世界の排出量の26%を占める可能性すら示されています。

製造工程別の排出内訳

排出量の内訳を見ると、どの工程に問題が集中しているかが見えてきます。

Quantis International(2018年)の分析によると、ファッション産業の環境負荷の構成比は以下のとおりです。

  • 染色・仕上げ工程:36%
  • 紡績(糸の準備):28%
  • 繊維の生産:15%

染色・仕上げ工程だけで全体の3分の1以上を占めています。Earth.orgの分析では、この工程が世界のCO2排出量の約3%に相当するとされています。つまり、ファッション産業の脱炭素を進めるなら、染色工程の技術革新が最も効果的なレバーになります。

水質汚染と水消費の深刻な現実

繊維産業が消費する水の量

ファッション産業は世界第2位の水消費産業です。

Quantis(2018年)のデータでは、繊維バリューチェーン全体の年間水消費量は215兆リットル。オリンピック用プール約8,600万杯分に相当します。

身近な製品で換算すると、その消費量の大きさが実感できます。

製品必要な水量換算
Tシャツ1枚約2,700リットル1人が約3年間で飲む水の量
ジーンズ1本約7,500リットル1人が約10年間で飲む水の量
綿花1kgの栽培約10,000リットル浴槽約50杯分

環境省のデータでは、日本国内で供給される衣服の製造に必要な年間水量は約83億立方メートル。そのうち約9割(約74億立方メートル)が綿花栽培に使われています。

染色工程が引き起こす水質汚染

水を大量に使うだけでなく、繊維産業は水を汚染する産業でもあります。

世界銀行(2020年)の報告によると、世界の産業排水の約20%が繊維産業から発生しています。UNFCCCの報告でも、ファッション産業が世界の廃水の約20%を生み出していると指摘されています。繊維染色は農業に次ぐ世界第2位の水質汚染源です。

この汚染を深刻にしているのが、使用される化学物質の多さ。世界銀行は繊維染色のみから72種類の有毒化学物質を水源で特定しました。繊維製造工程全体では推定15,000種類の化学物質が使用されており、その中には重金属(クロム、カドミウム、鉛など)や発がん性物質も含まれます。

被害が集中しているのは、生産拠点が多い開発途上国の河川です。

  • バングラデシュ・ブリガンガ川:ダッカ周辺の繊維工場からの未処理排水で、水が灌漑にも使えないレベルに汚染
  • インド・ノイヤル川:ティルプール地域の染色工場からの排水で生態系が崩壊
  • インドネシア・チタルム川:流域の400以上の繊維工場からの排水で「世界で最も汚染された川」の一つに

環境規制の執行力が弱い地域では、未処理の染色排水がそのまま河川に放出され、水生生態系だけでなく周辺住民の健康にも影響を及ぼしています。

マイクロプラスチック汚染

水質汚染のもう一つの深刻な側面が、マイクロプラスチックです。

Ellen MacArthur Foundation(2017年)の推計によると、衣類の洗濯によって年間約50万トンのマイクロファイバーが海に流出しています。ペットボトル500億本に相当する量です。

IUCN(国際自然保護連合)の2017年の調査では、海洋中の一次マイクロプラスチックの35%が合成繊維の洗濯に由来するとされています。UNEP(国連環境計画)はファッション産業が年間の海洋マイクロプラスチック汚染の約9%を占めると報告しています。

ポリエステル衣類1枚を1回洗濯するだけで、最大70万本のマイクロファイバーが放出されるという研究結果もあります。現在、衣料品に使われる素材の約60%が合成繊維(ポリエステル、ナイロン、アクリルなど)。この比率は2030年には73%に達すると予測されています。合成繊維への依存が深まるほど、マイクロプラスチック問題も悪化していく構造です。

廃棄物問題の全体像

世界で年間9,200万トンの繊維廃棄物

UNEPの推計によると、世界の繊維廃棄物は年間約9,200万トン。Ellen MacArthur Foundationの表現を借りれば「毎秒、ゴミ収集車1台分の衣類が焼却か埋め立てにされている」計算です。

廃棄物の行方を見ると、問題の根深さがわかります。

  • 埋め立て・焼却:85%
  • リサイクル(産業用ウエスやダウンサイクル含む):12%
  • 新しい衣服への再生:1%未満

Circularity Gap Report Textiles(2024年)によると、繊維原料のうちリサイクル由来はわずか0.3%。ほぼすべてがバージン素材から作られ、使い捨てられている実態が数字で裏付けられています。

この「作って、使って、捨てる」というリニア(直線型)経済モデルによって、年間5,000億ドル以上の素材価値が失われているとEllen MacArthur Foundationは試算しています。

日本における衣類廃棄の現状

日本の状況も見てみます。

環境省の2022年度データによると、日本では年間約73万トンの衣類が消費者の手元から離れています。その内訳は以下のとおりです。

区分割合
廃棄(焼却・埋立)47.0万トン64.3%
リユース13.3万トン18.1%
リサイクル12.7万トン17.4%

1日あたりに換算すると、大型トラック約130台分の衣類が焼却・埋立処分されています。

さらに問題なのが、使われずにクローゼットに眠っている衣類の存在。環境省のデータでは、一人あたり約24枚の服が1年間まったく着られないまま保管されています。クローゼット内の衣類のうち約45%が「しまい込まれたまま」の状態です。

政府は2030年度までに家庭から廃棄される衣類の量を2020年度比で25%削減する目標を掲げています。2026年3月には「サステナブルファッションの推進に向けたアクションプラン」も取りまとめられました。

リサイクルの限界と課題

「リサイクルすれば解決する」という考え方には限界があります。

前述のとおり、新しい衣服への再生(繊維to繊維リサイクル)の達成率は1%未満。リサイクルと呼ばれている12%の大半は、産業用ウエス(工業用の雑巾)やダウンサイクル(元の品質より低い用途への転用)です。

技術的なハードルも高い。現代の衣服は複数の素材を混紡(ポリエステル×コットンなど)していることが多く、素材ごとに分離する技術が確立されていません。さらに、ボタン・ファスナー・プリントなどの付属物が分離工程を複雑にしています。

回収インフラの整備も追いついていません。消費者が古着をどこに持っていけばリサイクルされるのか、導線が不明確な国・地域がほとんどです。

このまま対策が進まなければ、2030年までに繊維廃棄物は年間1億3,400万トンに達するとの予測もあります。

数値を踏まえて私たちにできること

消費者としての選択

ここまでの数値は圧倒的ですが、個人の行動にも意味はあります。

国連の試算では、1着の衣服の使用期間を2倍にするだけで、その衣服にかかる温室効果ガス排出量を44%削減できるとされています。購入量を減らし、今ある服を長く着ること。地味ですが、最も効果的なアクションです。

具体的には以下のような選択肢があります。

  • 購入前に「本当に必要か」「既に似た服を持っていないか」を確認する
  • リユースショップやフリマアプリを活用して、中古品の購入・売却を習慣にする
  • 破れた服はリペア(修繕)して使い続ける
  • 洗濯ネットをマイクロファイバーキャッチ機能付きのものに替える

業界・政策に求められる変化

消費者の意識だけで解決する問題ではありません。業界と政策レベルの変化も不可欠です。

素材面では、バージンポリエステルからリサイクルポリエステルやオーガニックコットンへの転換が求められています。環境省のデータによると、すべての綿花をオーガニックに転換した場合、約67億立方メートルの水消費を削減できる可能性があります。

規制面でも動きが出始めています。フランスは2025年から新品の洗濯機にマイクロファイバーフィルターの搭載を義務化しました。EUでは繊維製品の拡大生産者責任(EPR)の導入が進んでおり、メーカーに製品のライフサイクル全体に対する責任を求める流れが強まっています。

一部の企業は成果を出し始めています。H&Mは2019年から2024年にかけてScope 3排出量を23%削減。Elevate Textilesは2019年以降35%の排出削減を達成しています。ただし、業界全体としては排出量が増加しており、個別企業の努力だけでは不十分です。

まとめ

ファストファッションの環境負荷を数値で整理すると、問題の規模が鮮明に浮かび上がります。

温室効果ガスは年間9億4,400万トンで増加傾向。水は年間215兆リットルを消費し、産業排水の20%を生み出している。廃棄物は年間9,200万トン、そのうちリサイクルされるのは12%にすぎない。

「毎秒、ゴミ収集車1台分の衣類が捨てられている」という表現は、数年前に初めて聞いたときの衝撃を今でも覚えています。しかし数字と向き合い続けることで、問題の構造がクリアになり、どこに介入すれば効果的かも見えてきました。

私たちにできることは、まず現状を正確に知ること。その上で、1着の服を長く着る、素材や製造工程に関心を持つ、リユースを選択肢に入れる。小さな行動の積み重ねが、業界全体の変化を後押しする力になります。