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EUデジタル製品パスポート義務化の全貌:2027年からファッション業界はどう変わるか

リユースファッション研究所の田中美穂です。長年、欧州・アジアのサステナブルファッション市場を調査してきた立場から、近年の業界で最もインパクトの大きい制度変更について書き留めておきたいと思います。

EUで本格的な議論が進む「デジタル製品パスポート(DPP)」。2027年の繊維製品向け委任法令採択を控え、欧州本国だけでなく日本のアパレル・リユース業界にも、対応の波が確実に押し寄せています。「うちは EU に直接輸出していないから関係ない」と考える経営者の方も多いのですが、これは大きな誤解です。

本記事では、DPPの基本的な仕組みから、ESPR(持続可能な製品のためのエコデザイン規則)の全体像、2026年7月から先行する売れ残り廃棄禁止、日本企業への影響、そして中小企業がいま準備すべきことまでを、最新の一次情報に基づいて整理します。サステナブルファッションへの転換は、もはや「いつかやる」課題ではなく、「今期の経営課題」になりつつあります。

デジタル製品パスポート(DPP)とは何か

DPPとは、ひと言で表現すれば「製品のデジタルID」です。一つひとつの衣類・履物に固有の識別子が紐づき、その製品がどこで、何から、誰の手によって作られ、どのように使い、最後にどう廃棄・再生されるのか。一連の情報がデジタル空間に格納されます。

DPPの基本概念

消費者は商品タグや内側の縫製ラベルに印字されたQRコード、あるいは埋め込まれたNFCチップにスマートフォンをかざすだけで、その製品の「履歴書」を読むことができます。素材構成、原産国、製造工場、カーボンフットプリント、洗濯やリペアの方法、リサイクル時の分別方法まで。これまでブランドの中にしか存在しなかった情報が、購入者・修理業者・リセラー・リサイクラーすべてにアクセス可能となります。

技術的には、ISO/IEC 18004(QRコード規格)、ISO/IEC 18000-63(RFID規格)、ISO/IEC 14443/15693(NFC規格)のいずれかに準拠したデータキャリアの使用が想定されています。エンコーディングには GS1 Digital Link が事実上の標準となりつつあり、製品識別には GS1 の GTIN(Global Trade Item Number)が広く用いられる見込みです。

なぜ今、DPPが求められているのか

DPP構想の出発点は、2022年3月に欧州委員会が発表した「持続可能で循環的な繊維のためのEU戦略」にあります。ジェトロが発信した同戦略の要約レポートによると、欧州委員会は「ファストファッションは時代遅れ」と明言し、2030年までに EU 域内で販売されるすべての繊維製品を「耐久性があり、リサイクル可能で、リサイクル繊維を相当割合含み、危険な化学物質を含まず、労働者の権利と環境に配慮したもの」にする目標を掲げました。

この戦略を実現する制度の柱が、後述するESPRであり、その情報基盤こそがDPPです。情報を可視化しなければ、企業の主張を検証することも、循環システムを設計することもできない。これが、欧州が DPP を制度化する根本的な動機です。

DPPで開示される情報の範囲

繊維製品向けDPPに含まれるデータ項目は、EUと業界団体が共同で進める Trace4Value プロジェクトで議論が深められてきました。同プロジェクトのワーキンググループは、約126項目のデータポイントで合意に達しています。

ただし、すべてが消費者に開示されるわけではありません。アクセス権はおおよそ4つの階層に分けて設計される見込みです。

  • 消費者向け:25〜30項目(素材、原産国、ケア方法、修理ガイド等)
  • ブランド向け:内部管理・分析用の詳細項目
  • サプライヤー向け:原材料・工程に関する情報
  • 循環アクター向け:リサイクラー、リセラー、リペア業者がアクセスできる分解・再生情報

この階層設計は、企業の競争上の機密と消費者の知る権利、そして循環経済の機能性を両立させるための妥協点として議論されてきたものです。

ESPR(持続可能な製品のためのエコデザイン規則)の全体像

DPPはあくまで道具であり、その背後にある親規則が ESPR です。正式名称は Ecodesign for Sustainable Products Regulation。2024年7月に発効した EU 規則 2024/1781 が、これまでエネルギー関連製品に限定されていたエコデザイン指令を、ほぼ全ての製品カテゴリーへと拡張する形で制定されました。

2024年7月発効、繊維製品は2027年から本格化

ESPRはすべての対象製品に「性能要件」と「情報要件」を課す枠組みです。性能要件は耐久性・修理可能性・リサイクル含有率など、設計段階で満たすべき水準。情報要件は、その水準をどう開示するかを定めるもので、その中核ツールが DPP となります。

繊維製品については、ESPRの枠組みの中で個別の「委任法令(Delegated Act)」によって具体的な要件が定められます。この委任法令の採択時期が、現在のところ2027年と見込まれています。

優先カテゴリーとしての繊維・アパレル

2025年4月16日、欧州委員会は「ESPR Working Plan 2025-2030」を公表しました。欧州委員会のGreen Forum 公式発表によれば、優先カテゴリーとして指定されたのは、鉄鋼・アルミニウム、繊維(特にアパレル)、家具、タイヤ、マットレス、そして一部のエネルギー関連製品です。

繊維・アパレルが最優先カテゴリーの一つに選ばれた理由は明確です。EUの繊維・履物市場規模は約1,420億ユーロ(2019年)に達し、そのうちアパレルだけで780億ユーロを占めます。市場規模が大きいうえに、環境負荷も突出しています。

委任法令の採択スケジュール

繊維製品向けの委任法令は、2027年内の採択が見込まれていますが、採択即施行ではありません。一般的に18〜36ヶ月の移行期間が設定されるため、実質的な義務化施行は2028年以降になる見通しです。

下の表は、ESPRと関連規制の主要なスケジュールを整理したものです。

時期対象内容
2024年7月全製品ESPR本体が発効
2025年4月全カテゴリーWorking Plan 2025-2030 公表
2026年7月19日大企業売れ残りアパレル廃棄禁止が先行適用
2027年(予定)繊維製品委任法令採択、DPP要件の確定
2028年以降繊維製品DPP義務化の実質的な施行
2030年中堅企業売れ残り廃棄禁止が中堅企業へ拡大

スケジュールが「2027年」と「2028年以降」に二段構えになっている点は、対応戦略を考えるうえで非常に重要です。委任法令の内容が明確になってからシステム構築に着手したのでは、間に合わない可能性が高いからです。

2026年7月から始まる売れ残り廃棄禁止

DPP本体の施行に先立ち、繊維製品にだけ先行適用される措置があります。それが「売れ残り消費者向け繊維製品の廃棄禁止」です。これはDPPとは別のESPR派生規制ですが、繊維業界に与える衝撃という意味では、DPPと並ぶ重要トピックです。

大企業から先行適用される理由

欧州委員会は2026年2月9日、この廃棄禁止の実施法令を最終採択しました。欧州委員会環境総局の公式発表によれば、大企業に対しては2026年7月19日から、中堅企業については2030年からの適用と段階化されています。中小企業は当面の適用対象から外れています。

なぜ段階化が必要なのか。理由は単純で、対応コストの観点から中小企業を一律に縛るとサプライチェーンが機能不全に陥るためです。EUは規制設計において、競争への影響と中小事業者の現実をかなり丁寧に勘案しています。

廃棄禁止の影響と数字

EUの調査では、市場に流通する繊維製品のうち4〜9%が一度も使われずに破壊されているとされます。これにより約560万トンのCO2が排出されている計算です。560万トンというのは、中規模の発電所が1年間に排出する規模に近い数字で、業界全体として無視できる水準ではありません。

主な影響は次の通りです。

  • ブランド側の在庫リスク管理の根本的な見直し
  • アウトレット・ファミリーセールの位置付けの変化
  • リセール・寄付・リサイクルへの製品フローの増加
  • 製品設計段階での需要予測精度への要求の高まり

例外規定と報告義務

廃棄禁止には例外規定が設けられます。Circular Economy Hub の報道によると、欧州委員会は2025年6月30日、安全上の理由や製品破損などの具体的な除外ケースを定める委任規則の草案を公表しました。安全性が確保できない医療用衣料、汚損や水濡れで衛生上問題のある製品などが例外候補として議論されています。

加えて、大企業には透明性確保のため、以下の項目の年次報告義務が課されます。

  • 売れ残り製品の種類別・カテゴリー別の数量と重量
  • 売れ残り製品の処理方法(再販売、再製造、リサイクル、エネルギー回収など)の比率
  • 売れ残りを防ぐために講じた対策
  • 廃棄に至った場合の理由

「捨てない」だけでなく「捨てなかったことを証明する」運用が求められる点が、この規制の本質です。

DPPに記載されるデータ項目の詳細

DPPの議論で最も実務的な関心が集まるのが、「結局、何を開示しなければならないのか」という点です。委任法令の正式採択は2027年ですが、Trace4Value プロジェクトや CIRPASS-2 パイロットを通じて、想定される項目はかなりの解像度で見えてきています。

消費者が直接見られる情報

消費者がスマートフォンでQRコードを読み取った際に表示される、いわば「表面の情報」は、おおよそ次のような構成になる見込みです。

  • 製品の基本情報(ブランド名、モデル名、製造年)
  • 素材構成の詳細(リサイクル素材の比率を含む繊維組成)
  • 原産国・主要製造拠点
  • ケア方法・洗濯指示
  • 修理可能性スコアと修理サービスへのアクセス
  • 製品の環境フットプリント(CO2、水使用量など)
  • リサイクル・廃棄ガイド

注目すべきは、これらの情報が「単なる表示」ではなく、「次の購入者・利用者にも引き継がれる」点です。中古品として誰かに譲られたとき、リペア業者に持ち込んだとき、リサイクル拠点に渡したとき、その人もまた同じDPPを参照できる。製品の一生を通じた情報の継承が、サーキュラーエコノミーの基盤となります。

ブランド・サプライヤー間で共有される情報

消費者には表示されないものの、ブランドとサプライヤー、そして規制当局が共有する情報も膨大です。

  • 一次・二次サプライヤーの工場リスト
  • 染色・加工・縫製の工程別エネルギー使用量
  • 化学物質情報(REACH規則・SCIP データベースとの連動)
  • PEF(製品環境フットプリント)の計算根拠データ
  • 動物福祉、労働環境に関する監査記録

PEFは欧州が10年以上かけて整備してきた環境影響の標準化指標で、アパレル・履物には専用のカテゴリールール(PEFCR)があります。これにより、ブランドAのTシャツとブランドBのTシャツの環境負荷を、同じ物差しで比較できるようになる設計です。

技術仕様と標準

DPPの「読み取り」を支える技術仕様も、ほぼ固まりつつあります。

要素規格・標準
QRコードISO/IEC 18004
RFIDISO/IEC 18000-63
NFCISO/IEC 14443、15693
エンコーディングGS1 Digital Link
製品識別子GS1 GTIN
データ交換W3C Verifiable Credentials

これらは互いに排他的ではなく、製品特性に応じて組み合わせて使う設計です。たとえば店頭でのレジ決済にはGS1 GTINのバーコード、消費者のスマートフォン体験にはGS1 Digital LinkのQRコード、洗濯耐性が求められる衣類にはNFC、というように、用途別に最適な選択肢が用意されます。

日本のアパレル業界への影響

ここまで読まれた方は、すでにお気づきかもしれません。「これはEUの話だから日本企業には関係ない」というロジックは、もはや成立しないということです。

なぜ日本企業も対象になるのか

ESPRは「EU域内で販売されるすべての製品」を対象とします。製造国はどこでも構いません。日本の工場で作り、日本のブランドが企画した製品でも、EU向けに販売される限り、DPPは必須要件となります。

DPPが添付されていない製品は、通関の段階で差し止められる可能性があります。これは関税障壁ではありませんが、結果として「実質的な非関税障壁」として機能します。

KPMGジャパンが2025年11月に公表したDPPに関するレポートでは、日本企業が陥りがちな落とし穴として「DPP対応を単なるコンプライアンス対応として捉えてしまうこと」を挙げています。同社は、DPP対応を「サプライチェーン透明性強化と競争優位確立のための戦略的投資」として位置づけ直すことの重要性を強調しています。

ファーストリテイリングの先行事例

国内大手の対応はどう進んでいるのか。ファーストリテイリングの責任ある原材料調達ページを確認すると、2025年8月末時点でユニクロとジーユーのすべての商品の主素材について、原材料原産国から縫製工場までの全工程の商流を把握済みとされています。

同社の2025年8月期データから、サステナビリティ指標を抜粋すると次の通りです。

  • 再生可能エネルギー比率:93.5%
  • 2030年8月期までの再エネ比率目標:100%
  • 温室効果ガス削減目標(2030年):従来20%から30%へ引き上げ
  • 全使用素材に占める温室効果ガス排出量の少ない素材の割合:19.4%

これらの数値は、DPPで開示が求められる項目とそのまま重なります。大手はすでに「DPPで開示する準備」を実質的に始めていると見るべきです。

部門間の情報分断という課題

一方で、KPMGが日本企業共通の課題として指摘するのが、設計・調達・環境・営業といった部門間の情報分断です。日本の製造業は機能別組織が強く、それぞれの部門が独自のシステムとフォーマットでデータを管理している場合が少なくありません。

DPPは、製品ライフサイクル全体の情報を「ひとつの製品ID」に紐づけて統合管理する仕組みです。社内で情報が縦割りになっている状態のままでは、DPP対応そのものが成立しません。組織横断のデータ運用体制を構築することが、技術導入以前の必須条件となります。

中小企業(SME)が直面する現実的な課題

大手ブランドの対応事例は、ある意味で「資源のある企業の物語」でもあります。問題は、日本のアパレル産業の大部分を占める中堅・中小ブランドが、この波にどう対応するかです。

高い初期投資コスト

DPP対応には、複数のシステム投資が必要となります。

  • PLM(Product Lifecycle Management):製品情報の一元管理
  • ERP(Enterprise Resource Planning):基幹業務システム
  • ラベリングシステム:QR・NFCの個品単位での発行
  • データクレンジング・標準化のプロフェッショナルサービス

これらをフルスクラッチで導入しようとすれば、中堅ブランドでも数千万円から数億円規模の投資となります。CIRPASS プロジェクトのSME向け費用便益調査も、SMEにとっての対応負担の大きさを率直に指摘しています。

サプライヤーのデジタル対応力不足

もうひとつの深刻な課題が、サプライチェーンの「上流」におけるデジタル化の遅れです。とくに染色・整理加工工場、原材料サプライヤーは、伝統的に紙ベース・メール・FAXで情報をやり取りしてきました。彼らから DPP に必要な構造化データを継続的に取得する仕組みを作ることは、ブランド単独では到底できません。

業界横断的なプラットフォームやデータ標準の活用が、現実解として浮上しています。

解決策としてのDPP-as-a-Service

ここ数年で、SaaS型の DPP ソリューションが急速に成熟してきました。クラウド上でDPPの作成・配信・更新を行うサービスを利用すれば、初期投資を抑えつつ、規制対応の最低限の要件を満たすことが可能です。

検討時に注目すべきポイントは次の通りです。

  • GS1 Digital Link 等の業界標準への準拠
  • ESPR の委任法令に追随する更新ポリシー
  • サプライヤー側の入力負荷を下げる UI 設計
  • 既存PLM・ERPとの連携API

完璧を目指すよりも、段階的に範囲を広げる前提でツールを選ぶ姿勢が、中小企業には特に重要です。

DPPが切り拓くリユース市場の新時代

ここまで「対応の負担」を中心に書いてきましたが、DPPには見逃せないもう一つの顔があります。それは、リユース・リセール市場の成長を一気に加速させる起爆剤としての可能性です。

グローバルなリセール市場の急成長

世界の中古ファッション・ラグジュアリー市場は、2024年時点で約2,100億〜2,200億ドルと推計され、2030年には3,200億〜3,600億ドル規模に達すると予測されています。年成長率は新品小売の3倍に達しており、構造的な拡大期に入っていると見てよい局面です。

Z世代を中心とする消費者の価値観の変化、サステナビリティへの関心の高まり、メルカリ、Vinted、The RealReal、Vestiaire Collective など二次流通プラットフォームの成熟。複数の要因が重なって、ファッションは「買って捨てる」から「使い回す」へ、確実にシフトしています。

「規制負担」から「収益機会」への発想転換

ベイン・アンド・カンパニーとeBayが2025年に共同公表したレポートでは、衝撃的な試算が示されました。500ポンドで販売されたファッションアイテムが、DPPによる信頼性とトレーサビリティの担保があれば、リセール・修理・サブスクなどを通じて追加で500ポンドの生涯価値を生み出しうるとされています。

つまり、製品の経済的価値が原理的に2倍になるポテンシャルがある、ということです。同レポートでは、調査対象ブランドの約90%が DPP を「コンプライアンス負担」として見ていると指摘し、この発想を「収益機会」へと転換するよう促しています。

この視点は、リユース業界にとっても重要です。DPP は中古品の真贋判定、素材確認、原産地表示の信頼性を一気に底上げします。「この商品は本物のオーガニックコットンか」「この革製品は何年前の製造か」といった、これまで職人の経験と勘に頼っていた判断が、データに基づいて短時間で行えるようになります。

日本のリユース業界への示唆

日本国内のリユース市場も同様の構造的拡大期にあります。リサイクル通信社の調査では、国内ファッションリユース市場は2030年に1兆円規模を超える見通しが示されています。

DPP対応が義務化されれば、新品市場と中古市場の境界線は徐々に曖昧になります。新品時点で付与されたDPPが、所有者が変わってもそのまま使えるからです。日本のリユース事業者にとっては、「個品単位で履歴を保証できる」ことが当たり前になる時代への備えが、いま始まっています。

今から準備すべき3つのアクション

ここまでの内容を踏まえ、明日からの実務として何に着手すべきかを整理します。委任法令の正式採択を待っていては、確実に間に合いません。

ステップ1:自社製品データの棚卸し

最初に取り組むべきは、社内に分散しているデータの可視化です。

  • 自社が現時点で保有している製品データの一覧化
  • DPPで開示が求められる項目との突き合わせ
  • 不足項目の特定と、その情報源(サプライヤー、検査機関、社内データ)の確認

このプロセスは、IT部門だけで完結しません。商品企画、生産管理、物流、マーケティング、サステナビリティ担当が一同に集まって取り組む必要があります。プロジェクト推進体制を経営層が公式に承認することが、最初の関門です。

ステップ2:サプライチェーンとの対話

次に、サプライヤーとのコミュニケーション設計に入ります。

  • 主要サプライヤー(売上構成比上位)から優先的に対話
  • 求めるデータ項目と提出形式の明確化
  • 共通プラットフォームの選定とトレーニング提供
  • データ提出に対する適切なインセンティブ設計

サプライヤーにとっても、デジタル対応への投資は負担です。一方的に要求するのではなく、対応のための支援、コスト分担、長期取引のコミットメントなど、関係性の中で解決していく姿勢が求められます。

ステップ3:パイロット運用の開始

完璧な全社対応を最初から目指すのではなく、特定の商品ライン・カテゴリーでパイロット運用を始めることをお勧めします。

  • 主力商品のうち1〜2ラインを選定
  • DPP の作成から消費者への配信までのフローを試行
  • スキャン率、消費者の反応、サプライヤーの負荷を測定
  • 学習結果を踏まえた段階的な範囲拡大

Nobody’s Child の事例では、2023年から小規模なカプセルコレクションとデニムでDPPパイロットを開始し、100以上のスタイルへと拡大、累計20,000回以上の消費者スキャンを記録しています。実装と並行して、消費者エンゲージメントの仮説検証を進めた好例です。

まとめ

EUデジタル製品パスポートは、2027年の繊維製品向け委任法令採択と、その後の移行期間を経て、ファッション業界の標準的なインフラとなっていきます。2026年7月の売れ残り廃棄禁止は、その前哨戦に過ぎません。

要点を改めて整理します。

  • ESPRの繊維製品向け委任法令は2027年採択、2028年以降に施行される見込み
  • 大企業向け売れ残り廃棄禁止は2026年7月19日から先行適用
  • DPPには約126項目のデータが構造化され、うち25〜30項目が消費者に開示
  • 日本企業も EU 域内販売がある限り対象、通関差し止めのリスクあり
  • 中小企業は DPP-as-a-Service の活用と段階的対応が現実解
  • DPPは負担であると同時に、リユース市場拡大の最大のチャンスでもある

最後に一つ。私が長年このテーマを追ってきて確信しているのは、DPPは「対応する/しない」の二者択一ではなく、「いつから、どの深さで対応するか」を経営判断する課題だということです。早期に動いた企業は、規制対応コストを競争優位に転換できます。後手に回った企業は、コスト負担と機会損失の両方を被ります。

2027年は、もう来年の話に近い。今期の経営計画に、DPP対応を一行加えるところから、未来は変わり始めます。