消費者行動分析

SNS映えが古着購入を加速する?Instagram・TikTokの投稿分析から読むファッション消費の変化

サステナブルファッション研究者の田中美穂です。
株式会社サステナブル・ファッション・ラボの代表として、日々ファッション業界の構造変化を追いかけております。

近年、私が国内外の市場を観察するなかで、もっとも大きな変化のひとつと感じているのが「SNSと古着の結びつき」です。
Instagramで見かけた一枚の写真、TikTokで流れてきた一本の動画がきっかけで、若い世代が古着屋やフリマアプリに足を運ぶ。
そのような購買動線は、いまや世界的な潮流として定着しつつあります。

本記事では、国内外の統計データと具体的な事例をもとに、SNSがいかにして古着購入を加速させているのかを分析いたします。
Z世代を中心とした消費者行動の変化から、事業者にとっての示唆までを整理し、これからのファッション消費を読み解くための視座をお届けできればと考えております。

拡大するリユースファッション市場とSNSの相関関係

まずは、市場全体の動向とSNSの関わりを俯瞰的に見ていきます。
数字を丁寧に押さえることで、SNSと古着の関係が偶発的なブームではなく、構造的な変化であることが見えてまいります。

国内ファッションリユース市場の急成長データ

矢野経済研究所の調査によると、2023年の国内ファッションリユース市場規模は1兆1,500億円に達し、前年比113.9%という驚異的な伸長を記録しました。
さらに2024年には1兆2,800億円(前年比111.3%)への拡大が予測されており、二桁成長が続いている状況です。

同調査では、成長を牽引する要因として「フリマアプリの普及によるリユース利用者の増加」と「古着ブーム」が明確に挙げられています。
詳細は日本経済新聞に掲載された矢野経済研究所の調査結果をご覧いただければと思いますが、注目すべきは成長スピードです。
リユース市場全体(2024年3兆2,628億円、前年比4.5%増)の伸び率を大きく上回っており、ファッションリユースが市場全体を牽引する主役となっていることが確認できます。

世界のセカンドハンド市場が示す構造的変化

視野を海外に広げると、より大きな潮流が浮かび上がります。
米国のリセール市場調査で知られるThredUpが発表した「2024 Resale Report」によれば、米国のセカンドハンドアパレル市場は2024年に前年比14%の成長を遂げ、通常のアパレル小売市場の約5倍のスピードで拡大しています。

なかでも、オンラインリセール市場は同年23%成長し、2029年には400億ドル規模に達すると予測されています。
2024年時点で買い物客の58%がセカンドハンドを購入し、ミレニアル世代・Z世代の68%が中古品を購入した経験を持つという調査結果は、消費者行動の重心が明確に移りつつあることを物語っています。

SNS利用と古着購買意向の相関を裏付けるエビデンス

この市場拡大とSNSの関係を裏付けるデータも蓄積されつつあります。
先述のThredUpの調査では、若年層の買い物客のうち39%がソーシャルコマース経由でセカンドハンド購入を経験しており、そのうち62%がTikTokまたはTikTok Shopで購入したと回答しています。

米調査会社CivicScienceの分析では、TikTokユーザーの42%が中古品購入に積極的で、オンラインリセールサイトを利用した経験のあるユーザーの割合は26%に達しています。
これは非TikTokユーザーの11%と比較して2倍以上の水準であり、プラットフォームによって消費行動に明確な差が生じていることが示唆されています。

Instagram:ビジュアル文化が育てた「古着コーデ」というジャンル

Instagramは、古着を単なる中古衣類ではなく「表現手段」へと昇華させた最初のプラットフォームだと私は捉えております。
写真という視覚メディアと古着の相性は、実は非常に良好です。

#古着女子(フルジョ)が示したコミュニティ形成のモデル

日本のInstagramにおける古着カルチャーを語るうえで欠かせないのが、株式会社yutoriが運営する「古着女子」というアカウントです。
2018年3月に本格運用を開始した@furuzyoは、広告費をかけずに5ヶ月で10万フォロワーを獲得し、現在は18万人を超えるフォロワーを抱えるまでに成長しました。

Business Insider Japanが報じた古着女子創業者・片石貴展氏へのインタビュー記事では、成長の鍵として「#フルジョ」というハッシュタグを軸にしたコミュニティ設計が挙げられています。
アカウントに投稿を紹介されること自体がユーザーにとってのステータスとなり、投稿→リポスト→フォロワー拡大の循環が自然に生まれていく仕組みです。

現在#フルジョのタグでは約3万件の投稿が蓄積されており、日本におけるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の成功事例として広く知られています。

ハッシュタグが果たす「発見」と「所属感」の役割

古着のハッシュタグは、ユーザーにとって二つの重要な機能を果たしています。
ひとつは「発見」の機能で、特定のジャンルやコーディネートを探す際の入口になります。

もうひとつは「所属感」の機能です。
同じタグを使うことで、古着というカルチャーに参加する意識が生まれ、ゆるやかなコミュニティが形成されていきます。

古着コーデ、#古着屋、#古着mix、#vintageなど、無数のタグが投稿されるなかで、ユーザーは自分の好みや価値観に合った小さな世界を見つけていきます。

このプロセスそのものが、古着との出会いの体験価値を高めていると考えられます。

インフルエンサーが牽引する古着スタイリングの再定義

Instagram上では、古着を用いたスタイリングを提案するインフルエンサーの存在感が年々高まっています。
ボーイッシュな着こなし、ガーリーな組み合わせ、モードなミックスなど、多様な世界観の提案が並列的に存在することが特徴です。

こうしたインフルエンサーの発信は、単なる商品紹介ではありません。
古着一点一点の背景、生地の質感、時代性を語ることで、ファストファッションでは得られない「物語のある服」としての価値を可視化しています。

以下は、Instagramで古着関連の発信が担っている主な役割を整理したものです。

発信の種類主な役割消費者への影響
インフルエンサーのコーディネート投稿スタイリングのお手本を提示「自分にも着られそう」という購買意向の醸成
ショップアカウントの新着紹介商品情報の即時共有オンライン・実店舗への来店動機
ユーザー投稿(#フルジョ等)リアルな着用イメージの拡散共感を通じたコミュニティ参加意識の強化
ヴィンテージ解説アカウント時代背景や希少性の解説商品への理解と付加価値の認識

TikTok:ショート動画が変えた古着との出会い方

Instagramが「写真で魅せる」文化を作った一方、TikTokは「動画で伝える」文化を通じて古着の魅力を再発見させました。
数秒〜数十秒のショート動画が、これまでとは異なる購買動線を生み出しています。

世界を席巻する#ThriftTokと#ThriftHaulの熱狂

TikTokにおける古着カルチャーの中核をなすのが、#ThriftTokと#ThriftHaulという二つのハッシュタグです。

ThriftTokは16億ビューを超え、#ThriftHaulに至ってはTikTokとInstagramを合わせて80億ビュー以上を記録しています。

「Thrift Haul(スリフトホール)」とは、古着屋やチャリティショップで購入した商品をまとめて紹介する動画コンテンツを指します。
戦利品を並べ、価格や購入理由を語り、視聴者にコーディネートを提案するというフォーマットが定着しています。

パンデミック期を通じて、この#ThriftTokサブカルチャーは急速に拡大しました。
「サステナブルであることがクール」という価値観が、Z世代を中心に共有されていった点は注目に値します。

TikTokユーザーに顕著な中古品購入意向の高さ

前述のとおり、CivicScienceの調査ではTikTokユーザーの26%がオンラインリセールサイトの利用経験を持ち、これは非ユーザーの2倍以上の割合です。
プラットフォームの利用と中古品購入意向のあいだに、明確な相関が確認されている点は注目に値します。

ThredUp「2024 Resale Report」の詳細はThredUpのニュースルームで確認できますが、若年層買い物客の39%がソーシャルコマース経由でセカンドハンド購入を経験しており、消費者行動とSNSが不可分な関係にあることが示されています。
このマインドセットの変化を後押ししているのが、TikTokにおける古着コンテンツの日常化であると考えられます。

15〜19歳の購買起点として存在感を増すプラットフォーム

日本国内でも、TikTokの購買起点としての役割は明確に拡大しています。
ネットショップ担当者フォーラムが報じた2025年のZ世代調査によると、15〜19歳のTikTok経由の購買比率は27%に達しており、25〜29歳の水準を大きく上回っています。

若年層ほどTikTok経由の購買が活発である点は、次世代の消費構造を予測するうえで重要な示唆を含んでいます。
今後10年で、この15〜19歳層が消費の中心へと移行していくことを踏まえれば、古着×TikTokの経済圏はさらに拡大していく可能性が高いと私は見ております。

Z世代の購買行動が明らかにする構造的変化

ここまでの分析を踏まえ、Z世代の購買行動をより深く読み解いていきます。
SNSの影響力を過大評価するのではなく、その背景にある価値観の変化を丁寧に見ることが重要です。

SNSが情報収集の主軸となった消費行動

テテマーチ株式会社が実施した調査によると、Z世代が商品・サービスの購入時に参考にする情報源は、SNSが62%で1位となっており、テレビ番組・CM(43%)やWeb検索(39%)を大きく引き離しています。
Z世代の約6割が「新しいものを購入する際はSNSで口コミ等を調べてから購入する」と回答している事実は、購買プロセスの様相が根本から変わったことを示しています。

具体的にどのSNSで情報収集をしているかを見ると、Instagram(42%)が最多で、YouTube(38%)、X(旧Twitter・36%)、TikTok(16%)が続きます。
Instagramで「発見」し、TikTokで「共感」し、複数のSNSを横断しながら購買意思決定を進めていくという構造が浮かび上がってきます。

「共有前提」で服を選ぶ新しい消費価値観

古着とSNSの親和性を理解するうえで、私が特に重要だと考えているのが「共有前提」の消費という概念です。
Z世代の若者たちは、購入した服を自分だけの楽しみとして留めるのではなく、SNS上でシェアすることを前提に選んでいる傾向が強く見られます。

ここで古着が持つ「一点物」「他人と被らない」「ストーリーがある」という特徴は、シェアされる価値を持つコンテンツとしても機能します。
新品のファストファッションでは得られない「投稿映え」と「発信のフック」を、古着は自然な形で提供しているのです。

さらにKOMEHYOの調査では、Z世代の約7割が購入時に「リセールバリュー」を意識していることが明らかになっています。
「所有」から「循環」へと価値観がシフトしていることも、古着市場の拡大を後押ししていると考えられます。

サステナビリティ意識と自己表現の交差点

環境省がサステナブルファッションに関する取り組みのなかで指摘しているように、日本国内では年間約50万トンの衣類が焼却・埋立処分されており、所有している衣類のうち45%が着られないまま眠っているという現状があります。
こうした環境負荷への問題意識と、若年層の自己表現ニーズが交差する場所にあるのが、いまの古着カルチャーです。

デロイト トーマツの2025年度「国内Z世代意識・購買行動調査」によれば、Z世代のなかでも特に10代後半から20代前半の男性は、商品購入時にサステナビリティに準拠した商品を選ぶ割合が半数に達しています。
「エシカルだから買う」ではなく「エシカルで、かっこいいから買う」という感覚が、若い世代の消費行動を静かに変えつつあります。

事業者・ブランドにとっての示唆

ここまでの分析を踏まえ、リユースファッション事業者、そしてアパレル業界全体にとっての示唆を整理していきます。
SNSと古着の関係を戦略的に活用するための視点を提示できればと思います。

UGC(ユーザー生成コンテンツ)の戦略的活用

古着女子の事例が示すように、UGCを軸にしたコミュニティ形成は事業成長の強力な推進力となります。
広告費に頼らず、ユーザー自身が発信したいと感じる仕掛けを設計することが鍵となります。

事業者が実践できる具体的なアプローチとしては、以下のようなものが考えられます。

  • 独自ハッシュタグの設計と運用の一貫性
  • ユーザー投稿のリポスト・紹介による相互性の醸成
  • インフルエンサーとの中長期的な協業関係の構築
  • 実店舗とオンラインを横断した投稿導線の設計
  • 商品の背景ストーリーを伝えるコンテンツ制作

海外市場との比較から見える日本の成長余地

米国のセカンドハンド市場が2029年に400億ドル(オンラインリセールのみ)規模へ拡大する予測を踏まえると、日本国内のファッションリユース市場(2024年1兆2,800億円)はまだ成長の初期段階にあると私は分析しております。
特に、TikTok経由の購買が本格化しつつある現在、日本市場は今後3〜5年で大きな構造変化を経験する可能性が高いと考えられます。

欧州においては、パリ市が2024年に古着推進政策を打ち出すなど、政策的な後押しも加速しています。
日本でも環境省がサステナブルファッションの推進を進めており、市場拡大と政策支援が相乗効果を生む土壌が整いつつあります。

情報の信頼性と真贋鑑定への投資の重要性

一方で、市場拡大に伴う課題も存在します。
特にヴィンテージやブランド古着の領域では、偽物や状態不良品の流通リスクが指摘されています。

SNSの影響力によって購買決定が加速化するほど、事業者側には情報の透明性と信頼性の担保が求められるようになります。
真贋鑑定サービスの充実、コンディションの丁寧な開示、返品対応の柔軟性など、消費者の安心感を支える基盤への投資は、今後の競争優位を決定づける要素になっていくと考えられます。

以下、事業者が優先的に取り組むべき投資領域を整理いたしました。

投資領域具体的な取り組み期待される効果
商品情報の透明性サイズ・状態・年代の詳細開示購入後のトラブル低減、リピート率向上
真贋鑑定体制専門家による検品プロセスの整備ブランド古着市場での信頼性確立
SNS運用体制継続的なコンテンツ発信と対話ブランドコミュニティの育成
ロジスティクス迅速な発送と柔軟な返品対応顧客体験の質向上

まとめ

SNSと古着購入の関係は、単なるトレンドではなく、ファッション消費の構造そのものを変える大きな潮流として定着しつつあります。

本記事で見てきたポイントを振り返ります。

  • 国内ファッションリユース市場は2024年に1兆2,800億円規模へ拡大し、二桁成長が続いている
  • 米国では若年層買い物客の39%がSNS経由でセカンドハンドを購入し、うち62%がTikTok経由である
  • Instagramでは#古着女子のようなUGC型コミュニティが市場を活性化させている
  • TikTokの#ThriftTok(16億ビュー)と#ThriftHaul(80億ビュー)が世界的な購買文化を形成している
  • Z世代の6割がSNSを購買時の主要情報源としており、「共有前提」の消費価値観が広がっている

私が現場で感じているのは、若い世代の消費者たちが「サステナブルだから我慢する」のではなく「サステナブルで、自分らしくて、映える」という三拍子を自然に選び取っているという事実です。
この価値観の変化は、単なるマーケティング上のトレンドではなく、循環型ファッション経済への構造的な移行を示唆しているのだと思います。

事業者の皆さまにおかれましては、SNSを単なる集客チャネルとしてではなく、コミュニティを育て、価値観を共有し、消費者と共に文化を作り上げていくための場として捉え直すことをおすすめしたいと思います。
消費者の皆さまにおかれましては、次に一枚の古着を購入する際、その服が持つ物語と、自分がその物語をどうシェアしていくかを、ぜひ楽しんでみてください。

ファッション業界の未来は、間違いなく循環型のほうへと動いています。
その大きなうねりを、SNSと古着の関係性が象徴していると、私は確信しております。