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【現地レポート】ロンドンのヴィンテージ・キロセール文化:量り売り古着が若者を惹きつける理由

日曜日の朝9時半、ロンドン南部ペッカムにあるカルチャー施設「Bussey Building」の前に、開場を待つ長い列ができていました。
並んでいるのは、ほとんどが20代と思われる若者たちです。
手には折りたたんだ大きなエコバッグ。
これから始まるのは、服を1枚いくらではなく「1kgあたりいくら」で売る、ヴィンテージ・キロセールです。

こんにちは。リユースファッション研究所の田中美穂です。
サステナブルファッションの研究者として欧州のリユース市場を定点観測しており、今回のロンドン滞在では、週末に開催されたキロセールの会場をいくつか回ってきました。

本記事では、現地で見たキロセールの仕組みと会場の熱気をレポートしながら、量り売り古着がなぜ英国の若者をここまで惹きつけるのかを、市場データと消費者行動の視点から分析します。
記事の後半では、日本のリユース市場への示唆についても考えてみたいと思います。

ヴィンテージ・キロセールとは:服を「重さ」で買う仕組み

値札の代わりに秤がある売り場

キロセールの会場に入ってまず気づくのは、服に値札が付いていないことです。
来場者はレールに掛かった古着を自由に選び、集めた服をレジに持っていきます。
レジにあるのは大きな秤で、スタッフが服をまとめて計量し、「重さ×単価」で会計が決まります。

たとえば1kgあたり15ポンドのセールであれば、200g前後のブラウスは3ポンド程度、500gほどのデニムジャケットでも7.5ポンドで買える計算です。
仮に1ポンドを190円で換算すると、ブラウス1枚が約570円になります。
ロンドンの物価水準を考えると、この安さはかなりのインパクトがあります。

なお、量り売りの対象は衣類のみで、サングラスやアクセサリーなどの小物は1点5〜10ポンドの固定価格で売られているのが一般的です。

価格相場は1kgあたり10〜20ポンド

ロンドンで開催されるキロセールの価格は、主催者によって1kgあたり10〜20ポンドの幅があります。
古着ガイドメディアのThrifty Londonerによると、常設型の店舗では1kgあたり10ポンド、イベント型では15〜20ポンドが相場とされています。

入場料は無料から3ポンド程度です。
「買い物をするのにお金を払って入場する」という感覚は日本ではまだ馴染みが薄いものの、後述するように、この入場料が独特の熱気を生む仕掛けとしても機能しています。

ロンドンの主なキロセールを比較する

現地調査と各種情報をもとに、代表的なキロセールを整理しました。

主催者・会場形態価格(1kgあたり)入場料
Worth The Weight(ブリクストン)毎月第1週末£15無料
Worth The Weight(ペッカム)不定期開催£20£2〜3
Thrift Factory(シルバータウン)常設店舗£10無料
Shop Kilo(イーストロンドン)季節イベント£20イベントによる
Preloved Kilo(全国巡回)巡回イベント£20(前売り£15〜18)イベントによる

なかでもWorth The Weightは、2018年にシェフィールドで創業し、現在は英国各地でキロセールを展開する代表的なプレイヤーです。
ペッカムのイベント情報を掲載しているサザーク区の公式ページでは、ファストファッションへの対抗を掲げる企業として紹介されています。

現地レポート:ペッカムの会場で見た熱気

開場前から行列ができる「アーリーバード」文化

私が訪れたペッカムの会場では、一般入場より早く入れる「アーリーバード」チケットが設定されていました。
通常入場が2ポンドのところ、3ポンドを払えば開場直後から売り場に入れる仕組みです。

たった1ポンドの差ですが、この差は小さくありません。
キロセールに並ぶのはすべて一点物ですから、良いものから順になくなっていきます。
開場前の行列の前方に並んでいた学生風の2人組は、慣れた様子でエコバッグを広げながら開場を待っていました。
「早い者勝ち」の構造そのものが、イベントの高揚感をつくり出していると感じます。

60本のレールと、驚くほど「普通」の若者たち

会場に入ると、約60本のレールに古着がぎっしりと掛けられていました。
1980〜90年代のスポーツブランドのジャケット、柄シャツ、ニット、デニムと、ジャンルは雑多です。

印象的だったのは客層でした。
ファッション感度の高い一部の層だけでなく、ごく普通の大学生やカップル、親子連れまでが売り場に混ざっています。
英国では古着を買うことが特別な行為ではなく、日常の買い物の選択肢として定着しつつあることが、会場の顔ぶれから見て取れました。

試着室はありません。
多くの来場者はレギンスや体にフィットした服で来場し、鏡の前で服の上から重ね着して確かめていました。

ベテラン客の戦略は「軽い服から狙う」

量り売りという仕組み上、会場では独特の買い物戦略が生まれます。
現地の常連客の間で共有されているコツを整理すると、次のようになります。

  • シャツ・ブラウス・ワンピースなど軽い服ほど割安になる
  • デニムやコートは重いので、1点あたりの上限価格の有無を先に確認する
  • 荷物用の携帯スケールを持参し、会計前に重さを見積もる
  • 試着しやすい服装で行く

実際、私が会場で見かけた買い物上手な来場者は、まずレールを一周して軽い素材の服を集め、重いアウターは最後に「本当に欲しいものだけ」を厳選していました。
重さという新しい判断軸が加わることで、買い物がある種のゲームに変わるのです。

データで読む英国リユース市場の構造変化

Z世代が中古市場を牽引している

会場で感じた「古着の日常化」は、データでも裏付けられています。

英国小売協会(BRC)とOpiniumの共同調査によると、2025年に中古衣料品を購入または販売した英国の成人は43%にのぼりました。
世代別に見ると、Z世代(18〜27歳)が子供服を除くすべてのカテゴリーで中古市場をリードしています。
BRCの担当者が「中古はもはや次善の策ではなく、第一の選択肢になった」とコメントしている点は、市場の質的な変化を象徴しています。

米国のリセール大手ThredUpが発行した2025年版Resale Reportでも、Z世代・ミレニアル世代の68%が2024年に中古アパレルを購入したと報告されています。
さらに、若い世代の46%は衣料品支出の約半分を中古品に充てる見込みだというデータもあり、若年層にとって古着は「たまに買うもの」から「ワードローブの主軸」へと変わりつつあることが示唆されています。

世界の中古アパレル市場は2029年に3,670億ドルへ

市場規模の面でも、リユースファッションの成長は続いています。
ThredUpのレポート(調査はGlobalDataが実施)によると、世界の中古アパレル市場は年平均10%で成長し、2029年には3,670億ドルに達すると予測されています。
米国市場は2024年に14%成長しており、これは新品アパレル市場の約5倍のペースです。

キロセールは、この成長市場の中で「卸売」と「小売」の間に位置する興味深いビジネスモデルです。
大量に仕入れた古着を選別し、値付けの手間をかけずに重量ベースで販売することで、低価格と大量供給を両立させています。
1点ずつ値付けするヴィンテージショップとは異なるコスト構造が、1kgあたり10〜20ポンドという価格を可能にしていると考えられます。

年間71万トンの衣類がごみ箱へ:キロセールの社会的意味

英国の環境NGOであるWRAPの調査報告書によると、英国では2022年に約145万トンの使用済み繊維製品が発生しました。
このうち約71万トン、割合にして49%が、リユースやリサイクルに回らず一般ごみとして廃棄されています。
これは国民1人あたり年間35着を捨てている計算です。

つまり英国では、古着の供給量が再流通の処理能力を大きく上回っている状態にあります。
キロセールのような大量再流通の仕組みは、若者に安く服を届けるだけでなく、廃棄されるはずだった衣類の受け皿としても機能しているわけです。
詳しいデータはWRAPのTextiles Market Situation Report 2024にまとまっていますので、関心のある方はぜひご覧ください。

なぜ若者はキロセールに惹かれるのか

生活費危機の中での合理的な選択

英国では2022年以降、インフレによる生活費の高騰、いわゆる「コスト・オブ・リビング・クライシス」が若年層の家計を直撃しました。
限られた予算でファッションを楽しむ手段として、量り売り古着は極めて合理的な選択肢です。

1kgあたり15ポンドなら、軽めの服を選べば5〜6枚で20ポンド前後に収まります。
ファストファッションの新品を買うのとほぼ同じ予算で、一点物のヴィンテージが手に入る計算です。
「安いから我慢して古着」ではなく「同じ予算ならむしろ古着」という損得の逆転が、ここでは起きています。

「宝探し」というエンターテインメント性とSNS

キロセールの魅力は価格だけではありません。
60本のレールの中から自分だけの1着を探し当てるプロセスそのものが、エンターテインメントになっています。

この体験は、SNSとの相性が抜群です。
TikTokやInstagramでは、購入品を披露する「ホール(haul)動画」が一つのジャンルとして確立しており、「vintage kilo sale」のタグが付いた動画も数多く投稿されています。
Y2Kファッションのような特定の年代スタイルを掘り当てる様子は、視聴者の「私も行ってみたい」を誘発し、会場への集客につながります。

会場の行列、量り売りの秤、袋いっぱいの戦利品。
キロセールは、その一つひとつが「撮りたくなる画」で構成されたイベントだと、現地で改めて感じました。

他人と被らないことの価値

消費者行動の観点から見ると、Z世代の古着支持には「差別化欲求」が強く働いていると考えられます。
ファストファッションの服は誰でも同じものを買えますが、古着は基本的にすべて一点物です。

SNS上で自分のスタイルを発信することが日常になった世代にとって、「他人と被らない服」は単なる好みではなく、自己表現の必須条件に近いものになっています。
量り売りという形式は、低価格で「被らない服」を複数枚まとめて手に入れられる仕組みであり、この欲求に的確に応えています。

環境意識は入口か、それとも後付けか

サステナビリティの研究者として、あえて踏み込んだ考察をしておきたいと思います。
「若者は環境意識が高いから古着を買う」という説明は、半分正しく、半分は実態とずれているというのが私の見立てです。

各種の消費者調査を見る限り、古着購入の主要な動機として上位に来るのは価格と独自性であり、環境配慮は多くの場合、それらに続く位置にあります。
つまり環境意識は購買の「入口」というより、選択を後押しし、正当化する要因として機能していると解釈するほうが自然です。

ただし、私はこれを悲観的には捉えていません。
動機がどうであれ、新品の代わりに古着が選ばれれば、衣類の生産に伴う環境負荷は結果として抑制されます。
むしろ「環境のために我慢する」モデルよりも、「楽しくて安くて、ついでに環境にも良い」モデルのほうが行動変容は持続しやすいことが、キロセールの盛況からは読み取れます。

日本のリユース市場への示唆

日本のファッションリユース市場も1兆円を突破

日本のリユース市場も、着実に拡大を続けています。
リユース業界の専門紙であるリサイクル通信の市場規模推計2025によると、2024年の国内リユース市場は前年比4.5%増の3兆2,628億円で、15年連続の拡大となりました。
このうち衣料・服飾品は6,392億円、ブランド品は4,230億円で、両者を合わせたファッションリユース市場は初めて1兆円を超えています。

イベント型の古着販売も勢いがあります。
東京ビッグサイトで開催されている「古着フェス」は約300ブースを集める国内最大級の古着イベントに成長しており、2026年1月には第10回を迎えました。
若者が古着イベントに行列をつくる光景は、もはやロンドンだけのものではありません。

量り売りモデルは日本で根付くか

では、キロセールのような量り売りモデルは日本で定着するのでしょうか。
私は、可能性と課題の両方があると考えています。

可能性の側面から言えば、日本の古着イベント市場はすでに「宝探し体験」への支持を証明しており、量り売りが持つゲーム性はこの延長線上にあります。
値付け作業を省略できる量り売りは、人件費が上昇する日本の小売環境において、事業者側のメリットも小さくありません。

一方で課題となるのは、品質への期待水準です。
日本の消費者は古着に対しても検品や清潔さへの要求が高く、「ノー検品に近い状態で大量陳列する」英国型のモデルをそのまま持ち込むと、抵抗感を持つ層が一定数いると予想されます。
日本で展開するなら、事前の選別基準を明示するなど、信頼性を担保する工夫を組み合わせる必要があるでしょう。
実際、英国でもBSI(英国規格協会)の調査で、清潔さへの懸念が中古品購入の障壁になっていることが指摘されており、この課題は万国共通でもあります。

まとめ

ロンドンのヴィンテージ・キロセールは、1kgあたり10〜20ポンドという分かりやすい価格設定と宝探しの高揚感で、週末ごとに若者の行列をつくり出していました。
その背景には、生活費高騰下の合理的な節約行動、SNSと結びついた体験価値、他人と被らない自己表現、そして年間71万トンの衣類が捨てられる英国の構造的な課題があります。

環境意識だけに頼らず、「楽しさ」と「損得」で人を動かしている点に、私はこのモデルの強さを感じました。
サーキュラーエコノミーの実現は、我慢の上には成り立ちません。
キロセールの会場で見た若者たちの熱気は、循環型ファッションが「正しい選択」から「楽しい選択」へ進化するための、具体的なヒントを与えてくれます。

日本の事業者の皆さんにとっても、参考になる部分は多いはずです。
私も引き続き、欧州と日本の現場を行き来しながら、この変化を追いかけていきます。